Motor Fan's YEAR 2016

三栄書房

NEWS

2016.11.1

来年は頂点を目指す。ゆくゆくは宇宙へも!? ── レッドブル・エアレース 室屋選手シーズン報告会

レッドブル・エアレース参戦中の室屋義秀選手のシーズン報告会が10月28日に室屋選手のホームグラウンド、福島スカイパークで開催されました。今シーズンの結果と来年に向けての抱負などをお伺いしました。

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──  今年の振り返りは

進化をしたが、歯車が噛み合い切れなかったシーズンでした。

──  開幕戦アブダビ、第2戦シュピールベルクとGオーバーで失格しました。

シーズン開幕前に、勝ちに行くためにウイングレットを製作しましたが、レギュレーション(使用認可の)変更により装着できなかったり、Gセンサーシステムの変更が直前に行われたりと、出ばなをくじかれました。しかし、得られたデータからはポテンシャルが確認でき、次戦千葉以降はライバルと戦えるという実感を得て、日本に戻ってきました。

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──  千葉での優勝では他の選手が喜んでくれたと聞いていますが。

特にトレーニング時代から苦楽を共にし、同期デビューを果たした「2009年組」(マティアス・ドルダラー、マット・ホール、ピート・マクロード)で一番最後の優勝でした。

それぞれの初優勝の時は皆で喜んだのですが、私の時も同じように皆喜んでもらえました。千葉戦は全力で戦い、実力で勝ち抜いた。皆も全力で戦い天候に左右されるところも少なかったので、納得の1位だったのではないかなと思います。

──  中盤のブダペスト(ハンガリー)は5位、アスコット(イギリス)は8位、ラウジッツ(ドイツ)は14位と残念ながら振るいませんでした。

ブダペストは予選中止でしたが、他は3位、4位と悪くなかった。予選は全力を出す、一発のタイム勝負なので好きです。

しかし、レースに入ると相手に勝つ・先にフィニッシュする事は必ずしも全力を出さなくてもよいのです。ある程度余裕を残して勝ち進めばいいのですが(エンジン等への負荷が抑えられえる)、その調整が上手くいかなかったのが反省点です。対策としてメンタルコントロールのトレーニングをしています。

──  ランキングは昨年と一緒でしたね

昨年はシーズン終盤に追い上げての6位に届いたという感じでしたが、今年はもっと上を目指せる感じだったのに、色々あって6位に収まりました。全体的なチーム力としては今年の方がずっとあると思っています。

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──  得意なコースはどちらですか?

テクニカルなコースの方が好きですが、機体は直線が長い高速コースが得意です。
低速の旋回が続くコースでは、ウイングレットが付いている機体の方一歩先を行くので、高速かつテクニカルなコースという事になります。

──  具体的には?

千葉ですね(笑) 千葉は横長で直線部分が長いですけど、バーティカルターンもあります。技術的には非常に難しいレイアウトですが、千葉はある意味全部がマッチングしていたと思います。

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──  苦手なコースは?

特にないですが、シンプルなコースでしょうか。機体が改良され、直線スピードは一番速いのではないかと思ってます。あまり直線が長いと、その先の旋回で一人だけオーバーGの可能性があります。

具体的には、速度域が340〜350kmを越えるとオーバーGするエネルギーに達するボーダーラインがあるのですが、他の機体はまだそこに達しないのでオーバーGの危険が低いのに対して、我々だけがそこを越えてオーバーGになってしまいます。速すぎる分、来年の対策が必要です。

──  自身の強みはどこでしょう。

他のパイロット13人は全員すごいプロフィールの持ち主なんですよね。空軍のパイロットだったり、実家が飛行機学校やっていたり……2009年組も同様で、皆に一歩先に行かれてしまいます。

環境的なところもありちょっと置いて行かれる事もありますが、1年ぐらい遅れて必ず追いついています。今年マティアスが優勝で、マットが2位ですから、来年あたり……コツコツと亀のように追いかけるのが得意です。しつこくやります(笑)

──  今年、ナイジェル・ラム選手が引退されました。ブライトリングパイロット同士で交流が有ったと聞きましたが。

ヨーロッパ戦が続いている時、オックスフォードの自宅に2週間ほど居候させてもらいました。その中で生活を見せてもらい、ナイジェル選手はあの歳(今年還暦)まで現役を続けられているのだなと勉強させてもらいました。

フライトになると真剣勝負で「コドモか!」と思う程負けず嫌いで衰えていません。レースを離れると非常に温和で余裕のある方です。

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ブライトリングチームは来年フランス人の若いパイロット、ミカ(2015年チャレンジャークラス・チャンピオンのMikael “Mika” Brageot選手)が参戦します。めっちゃくちゃ上手くて、今ものすごいトレーニングをしています。若干ビビってます(笑

──  来シーズンのテーマは?

やはり来年は総合優勝というところに(チームの)ポテンシャル的には届いていますので、いかにレースで勝ち進んでいくか-そこに焦点を当て、最終的に総合で勝てるという事を目指す年だと思います。

今も準備は進んでいて、機体もカリフォルニアの方で改造を進めており、あと2週間ほどで来年に向けたテストが始まります。チームとしては完全に2017年に向かって動いています。

自分自身は国内でフィジカル・メンタルトレーニングをはじめ、ありとあらゆる準備をしようと思っています。実力も溜まっているので来年は面白くなると思います。

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──  国内活動について教えて下さい

エアーショーを岩国基地(山口)や高松(香川)など、九州から北海道まで日本全国を回っています。この後も笠岡(岡山)や御坊(和歌山)、土浦(茨城)などで開催する予定です。

エアーショー、私はなかなか見る事は無いのですが(笑)、生でみると音と迫力がTVと全然違いますから、ぜひ生で見て欲しいですね。追っかけて回るのは大変ですから、我々の方から出掛けて行ってアビエイションの魅力を知って頂きたいと思います。

──  エアレースでの優勝以来、スカイスポーツの目にする機会が増えたように思います。

今年もNHKさんが全戦放送してくれて、優勝の後は民放さんにもよく取り上げていただきました。

エアレースといえば「何か風船の間をこんなん(手をくねくね)だよね」感じにはなりました。前はエアレースというと「へー、何?」とか「”エアギター”みたいななんちゃってレーサー?」そんな会話でしたが、ここ1,2年で飛行機がパイロンの間を飛ぶ競技……くらいには広まったと思います。

──  世界で活躍する室屋さんを見て、将来パイロットになりたいお子さんたちも増えているのでは?

航空に興味を持った子が必ずしもパイロットになる必要は無くて、整備とか管制官とか航空関係の仕事に興味を持つきっかけになり、進める環境ができると良いですね。

ここ福島県では子供たちを対象に航空教室を大規模にやっています。これを長く続けていけば、参加した子供たちが大学・専門学校を卒業しています。その頃にこの地域に航空産業が育っていれば、自然と興味を持った世界に就職していける。そういう地域を作っていきたいと思っています。

航空先進国に比べると日本はまだまだで、アメリカにはこのような小型機が40万機ありますが、日本は700機程度。その位規模が違う。これから広がっていけば、まだまだ爆発的に広がるポテンシャルはあると思っています。

──  福島の復興にかける想いは?

’98年に開港して、良い環境だったのでそれを機会に引っ越してきました。この空港で練習させてもらって、トレーニングを積んで、それで初めて世界の頂点に手が届きました。

この結果は、地元の支援、皆さんの力の賜物なんです。僕はコックピットにいて喋る役なので目立つのですが、これは全員の力によるもの。頂いた力はなるべく地域に還元してそれを次の世代に…となってくると思います。

航空宇宙産業の発展というのは県知事も明言されてますし、これからもっと大きい施設、何だったら宇宙基地を作るとか色々なことを妄想では思っていますが、そのうち実現するんじゃないかとも思っているんですけどね。

──  室屋さんもゆくゆくは宇宙に飛び立つんですか?

実現するころには、僕はもう老齢なんで、僕はそこでアクロバットの練習だけできたらいいと思ってます(笑)次の世代が飛んでると思います。

──  最後にファンの皆さんにメッセージをお願いします。

2016年もエアレース、エアショー含めて皆さんのお蔭で無事に終わりました。一歩成長できたと思ってます。

来年はさらにもう一歩成長して、本当に頂点を目指す戦いに入ってくると思いますので、本当に皆さんの力が必要です。オールジャパンで戦っていかないと、勝てる世界ではないので、また来年もよろしくお願いしたいと思います。

インタビューの後、デモフライトが行われました。

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使用されたのはEXTRA 300L。レッドブル・エアレースでもチャレンジャークラスに使用される機体と同系列です。

わずかな滑走でふわりと浮くと、その高さを維持したまま取材陣の前を通過、滑走路端で垂直に急上昇。急旋回や垂直降下、機体を斜めに傾けたまま滑走路上をフライバイなど、スタントパイロット室屋選手のテクニックが披露されました。

エアレースの会場も、ちょっとした望遠レンズ(200mm)でパイロットの顔を撮れるほど飛行機に近いですが、今回は手を振っているのや表情もわかりました。100mを切る距離での飛行は流石に迫力満点。見る機会があれば、ぜひ現場に足を運ばれることをお勧めします。

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お話しをお伺いすると、今年の分析と来年の準備も順調に進んでいるようでした。来シーズンのエアレースでは総合優勝を目指す室屋選手の活躍に期待しましょう。

(川崎BASE)

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