Motor Fan's YEAR 2016

三栄書房

NEWS

2016.4.7

クルマのハンドル、最初は丸くなかったって知ってますか?【F2P Vol.14】

ステアリング棒2輪2 次? その1
1988年、ベルタ・ベンツは、発明者の夫カールに内緒で、ふたりのティーンエイジャー息子を乗せたベンツ・パテントモートルヴァーゲン3輪自動車で世界最初の長距離往復192kmのツアリングをやってのけました。

操舵柄を握るのが自動車発明者カール・ベンツ、隣が性能実証長距離走行を実行した妻ベルタ。
操舵柄を握るのが自動車発明者カール・ベンツ、隣が性能実証長距離走行を実行した妻ベルタ。

もっとも、ベルタはカールの才能を見込んで持参金を投資し、その頃の世間の馬なしクルマへの冷淡さが不満でした。ベルタ・ベンツは実証ドライバーであり、発明家(途中ブレーキ劣化でシューを付ける発想)であり、そして卓越した広報パーソンでした。

ベンツ・パテントモートルヴァーゲン複製車。水冷4ストローク単気筒984cc後輪駆動3輪車。
ベンツ・パテントモートルヴァーゲン複製車。水冷4ストローク単気筒984cc後輪駆動3輪車。

カールは、4輪車を意図していたのですが、メカが複雑すぎると前1輪操舵柄(ティラー)方式としました。複数の複製車の動画では、軽々と、しかも正確に走っています。

自動車初期は、電気、蒸気、内燃機関が競い、電気が多数でした。米ステュドベーカー社の1903 EVも操舵柄です。
自動車初期は、電気、蒸気、内燃機関が競い、電気が多数でした。米ステュドベーカー社の1903 EVも操舵柄です。

イラストは、英BMCが横置きエンジン前輪駆動第2弾 “1100”を発表した際の広報資料の操安性、乗り心地説明です。馬車の場合、「ピッチング制御は最良、ただし操舵性は馬次第」。手綱が効かないといわれる所以でしょう。

英BMC社の1962年“1100”発表時の広報資料の操安性乗り心地説明イラスト。馬車の行く手は「馬次第」です。
英BMC社の1962年“1100”発表時の広報資料の操安性乗り心地説明イラスト。馬車の行く手は「馬次第」です。

やがて輪形のステアリングホールが出現します。

 

さて、わが敬愛するベルタ・ベンツの大旅行の125年後、2013年8月、マンハイムからフォルツハイムの歴史100kmルートをたどったのがS500「インテリジェント・ドライブ」でした。

メルセデス-ベンツは、ベルタ・ベンツ大旅行の125年後、Sクラス・“インテリジェントドライブ”を彼女を記念した歴史的ルート100km自動走行させました。丸ステアリングホイールですが、技術者ドライバーは万一の危機対応役で、介入はしませんでした。
メルセデス-ベンツは、ベルタ・ベンツ大旅行の125年後、Sクラス・“インテリジェントドライブ”を彼女を記念した歴史的ルート100km自動走行させました。丸ステアリングホイールですが、技術者ドライバーは万一の危機対応役で、介入はしませんでした。

エクスパートドライバーである技術者が円形ステアリングホイール背後に座っていましたが、クルマは一般交通車群の間を自動走行しました。

 

1900年頃には、多くの自動車は円形ステアリングホイールを採用しています。この仏デラヘイの広告、女性が嬉々として運転している姿を描いています。

 1899仏デラヘイのポスターは、嬉々として丸型ステアリングホイールを回す女性を描いています。右側通行ですが、運転席は右です。
1899仏デラヘイのポスターは、嬉々として丸型ステアリングホイールを回す女性を描いています。右側通行ですが、運転席は右です。

ヨーロッパは右側通行ですが、この時代、右ハンドルが多かったのは、非舗装の路肩がしっかり見え、落防止策だといいます。

 

1900年代には機械式、電動アシストのアイデアが出現、1926年にはアメリカ高級車ピアースアロウ社の技師が本格的パワーステアリングの実証をしました。

最新のキャラックELRハイブリッドのステアリング。多種機能スイッチをつけています。
最新のキャラックELRハイブリッドのステアリング。多種機能スイッチをつけています。

彼は、すぐにGMに移りましたが、GMは複雑で高価過ぎるというので棚上げ。最初の生産型は1951クライスラー・インペリアル、翌52年キャデラックでした。以後、急速に普及します。
奇妙なアイデアは、英BLオースティン・アレグロの“ クアティック”で、デザイン作業中のある日、会長のロード卿が角ばったステアリングホイールを持ってきて、「これをつけろ」と命令。ノンパワーですが、錯覚的に軽く思わせるというのです。

1973オースティン・アレグロの“クアティック”、見た目で軽く思わせる経営トップのバッドジョーク的アイデアでした。
1973オースティン・アレグロの“クアティック”、見た目で軽く思わせる経営トップのバッドジョーク的アイデアでした。

一名、「貧乏人のパワーステ」、悪評紛々で後期は丸型となりました。

(山口 京一)

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