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自動車向けCFRPの世界需要は2020年には28,000tに増加。矢野経済研が需要予測を発表

矢野経済研究所が、自動車向け炭素繊維強化プラスチック(CFPR)の世界需要予測を発表しました。

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今回の発表された予測の調査は2016年7月〜10月に実施されたもので、調査対象は自動車メーカー、炭素繊維メーカー、関連メーカー、研究開発機関に及んでいます。

調査対象のCFPRとは、強化材に炭素繊維を用いた繊維強化プ ラスチックの総称で、マトリックスに熱硬化性樹脂を使用する炭素繊維強化熱硬化性プラスチック(CFRTS)、熱可塑性樹脂 を使用する炭素繊維強化熱可塑性プラスチック(CFRTP)を調査対象に含めています。

発表された調査結果によると、自動車向けCFPRの世界需要量は 2015年の時点で9,231tと推計され、2020年には28,000tに増加すると予測しています。ただし、今回の需要量集計には、燃料電池自動車(FCV)の水素タンクのCFPRは含まれていません。

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調査結果の分析によると、自動車向けにCFRPが本格的に採用されはじめるのは2017年頃からで、2020年頃までは車体構造材のモノコックにCFRPを採用するのはBMWの i3/i8 のような高級車に限定されるとしています。

高級車の車体構造材でのCFRP採用や、部品材料の鉄からCFPRへの置き換えを中心とする需要で、2020年の自動車向けCFRP需要量は28,000tに増加するという予測結果を導き出しています。

その後、自動車の「マルチマテリアル化」が進展し、2025 年には世界の自動車向け CFRP需要量は、85,231tに達すると予測しています。

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2020年から2025年のCFPR需要量増加予測は、車体設計全体での材料採用の見直しとハイブリッド材料(鉄+CFRP、アルミニウム+CFRP)に代表される「マルチマテリアル化」が自動車向けの素材分野で進み、その過程で、高級車からより低価格帯の大衆車にCFRP採用が拡大することによると分析しています。

今回の予測全体を最近の自動車業界の動向に照らし合わせてみると、素材メーカーでは東レ、帝人などが自動車向けのCFPRを手がけており、CFPRを採用する高級車以外の自動車メーカーでは、トヨタが新型プリウスPHVのバックドアにCFPRを採用し、CFPRを含むバックドアの量産性確保のために新型プリウスPHVの発売開始が遅れているのでは、と噂されていることが想起されます。

(山内 博・画像:矢野経済研究所、東レ、帝人)

帝人、米国CSP社を完全子会社に。自動車向け複合材事業を強化

帝人は、米国の自動車向け複合材料成形メーカー コンチネンタル・ストラクチュラル・プラスチックス社(Continental Structural Plastics Holdings Corporation:CSP社)の全株式を取得し、完全子会社化すると発表しました。

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今回のCSP社の完全子会社化で帝人は、自動車向け複合材料製品事業を強化することになります。買収金額は総額825百万米ドル(8,4000億円)ということです。

帝人は2008年に複合材料開発センターを開設し、複合材料事業に進出。2012年には米国に複合材料用途開発センター、松山事業所にCFRTP(炭素繊維強化熱可塑性樹脂)のパイロットプラントを新設し、複合材事業を推進してきました。

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また、2015年に複合材料製品の国際的な試験所認定規格である「ISO/IEC 17025」を認証取得し、欧米の自動車メーカーがTier1メーカー(ティアワン:自動車メーカーに直接納入する一次部品サプライヤー)に対して認証取得を必須としている品質マネジメントシステム規格「ISO/TS 16949」も取得。グローバル水準の自動車部品メーカーとしての体制を整えています。

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一方CSP社は、1969年の設立以来、自動車向け樹脂製車体部品を北米の自動車メーカーに供給しており、北米最大のTier1メーカーとして有力な自動車部品会社です。

CSP社は、熱硬化性複合材料を使用した自動車向け部品に強みを持ち、特に自動車業界で「クラスA」と言われている塗装を施したような美麗な外観の外板部品では、業界のグローバルリーダーとして、米国・欧州・日本の自動車メーカーに数々の採用実績があります。

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帝人は、将来の自動車車体の軽量化を見据えて、今後CSP社の技術・販売網を活用して自動車部品事業の拡大を目指すものと見られます。

(山内 博・画像:CSP社)

三井物産、炭素繊維を自動車車体へ利用する独・自動車エンジニアリング会社へ出資参画

大手商社の三井物産は、独・Forward Engineering GmbH(フォワード エンジニアリング ゲーエムベーハー:FE社)に出資参画するとともに、FE社と業務提携の契約を締結したと発表しました。

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FE社は、炭素繊維・複合材料を使用した自動車構造材設計・エンジニアリング分野のリーディング企業で、南ドイツ・ミュンヘンに本拠を置いています。

三井物産は、今後FE社の技術を利用して、炭素繊維・複合材料を自動車分野に使用する事業を拡大することを目指すものと思われます。

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航空機分野では構造体に炭素繊維・複合材料を使用することは広く普及していますが、自動車の量産車ではまだまだ研究段階で、車体を軽量化するために今後の普及が期待されています。

FE社は、旧社名のRoding Automobile GmbHの頃から量産車を軽量化することを目指して、炭素繊維・複合材料を用いた自動車車体開発で実績を積み重ねてきました。

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一方、三井物産は昨年4月、金沢工業大学の革新複合材料研究開発センターと複合材料研究で手を結び、炭素繊維・複合材料による自動車部品の新製法に関する共同開発を開始。本年3月にはノルウェーと韓国の炭素繊維関連メーカーの株式を取得するなど、炭素繊維関連事業を急速に拡大しています。

(山内 博・画像:三井物産)

世界初、熱硬化性と熱可塑性の長所を両立した新炭素繊維材料を発売

新日鉄住金マテリアルズは、現場で重合・硬化できる新規フェノキシ樹脂を用いた炭素繊維熱可塑性プリプレグ「NS-TEPreg(エヌエス テプレグ:登録商標)」の開発に、世界で初めて成功したと発表しました。

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近年、自動車業界でも需要が高まっている炭素繊維強化プラスチックは、炭素繊維を布状に加工したプリプレグを積層し、加熱・加圧・冷却して成形します。

炭素繊維強化プラスチックは、熱硬化性タイプ(CFRP)と熱可塑性タイプ(CFRTP)の2つに分類されます。

CFRP用の熱硬化性プリプレグは、粘着性・柔軟性がある(半硬化)ので作業性が良いという特徴があります。その成形品であるCFRPは優れた強度・剛性を有す反面、加熱しても鉄やプラスチックのように変形しないため、二次加工性や量産性に課題があります。また、耐衝撃性も高くありません。

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一方、これまでのCFRTP用の熱可塑性プリプレグは、粘着性・柔軟性がなく(完全硬化)作業性がよくありません。その成形品であるCFRTPは耐衝撃性が高く、加熱すると柔らかくなるため変形しやすく、二次加工性は優れますが、強度・剛性の面ではCFRPよりも劣ります。

そこで、近年、良好な作業性を有し、成形しCFRTPとなっても、CFRP同等の優れた強度・剛性を実現する熱可塑性プリプレグの開発が求められてきました。

今回同社が開発に成功した「NS-TEPreg」(熱可塑性プリプレグ)は、従来の熱硬化性プリプレグの良好な作業性を有し、成形してCFRTPとなってもCFRPと同等の優れた強度・剛性を実現し、熱可塑性の耐衝撃性、二次加工性も有するという両方の長所を両立した、これまでの常識を覆す画期的な新炭素繊維材料です。

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「NS-TEPreg」は、新規フェノキシ樹脂を用いたプリプレグであることがポイントです。

今回開発した新規フェノキシ樹脂は、通常のエポキシ樹脂と同様に未硬化の状態では液状でありながら、硬化が完了した後はプラスチック同様の熱可塑性を示すという特殊な樹脂です。

本新規フェノキシ樹脂に加え、さらに、この樹脂の硬化反応を半硬化状態にコントロールする製造技術も開発することで、世界で初めて高品質の”半硬化状態の熱可塑性プリプレグ”「NS-TEPreg」の量産化に成功しました。

「NS-TEPreg」は、熱硬化性プリプレグ同様に半硬化状態なので、成形にCFRPの成形設備がそのまま適用できるので、材料を使う現場に新たな設備投資が不要というメリットもあります。

従来の熱可塑性プリプレグを用いて作られたCFRTPは、炭素繊維と樹脂との接着力が低く、炭素繊維の高強度・高弾性といった性能を発揮できませんでした。一方「NS-TEPreg」を用いて作られたCFRTPは、炭素繊維と樹脂との接着力が高いため、CFRPと同等の高強度・高弾性を持つという優れた性能を備えています。

さらに、「NS-TEPreg」に用いられる新規フェノキシ樹脂は、靭性(粘り強さ)が高いことから、一般的なCFRPに比べて成形品の層間強度が高く剥離しにくい特徴があります。

これらの接着力、強度、樹脂の靭性により、優れた耐衝撃特性も示します。また、樹脂の特殊な構造から、熱可塑性の樹脂でありながら、耐水性に優れ、湿気にも強く、吸湿による寸法変化や性能低下が小さいという特徴もあります。

「NS-TEPreg」は軽量・高強度で作業性がよく、自動車業界ではハイブリッド車(HV)、電気自動車(EV)、燃料電池自動車(FCV)などの環境対応車への応用と、軽量化への貢献が期待されています。

(山内 博・画像:新日鉄住金マテリアルズ)