Motor Fan's YEAR 2016

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軽量コンパクトな「eアクセル」が、新しいハイブリッドAWDを生み出す【GKNドライブライン試乗会】

ボルボXC90のプラグインハイブリッド仕様に採用されている「eAxle(eアクセル)」は、GKNが注力しているAWDシステムになります。

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このシステムは、ボルボXC90 T8 Twin Engine AWDをはじめ、BMW 225xe アクティブツアラーなど、PHVやEVなどに最適。

PHVであるボルボXC90 T8 Twin Engine AWDの場合、ベースとなるFF駆動に後輪アクスルを追加され、回生機能をもつEV走行では航続可能距離40kmを達成し、最高速は125km/hに到達。もちろん、AWD走行も可能にしています。

xc90_t8なお、ボルボXC90 T8 Twin Engine AWDの「Twin Engine」のひとつを示すモーターの出力は60kW、トルクは240Nm。

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GKNの「eアクセル」の特徴は、ギヤボックスとモーターを部分的に統合している点。電動モーター用の共通のアルミハウジング化やトランスミッションの同軸配置、中間シャフトとデファレンシャルにギヤを一体化することで約15kgと軽量かつコンパクト化を果たしています。

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また、特許技術であるディスコネクトシステム(EDD)の採用により、高速走行時にはFFに切り替わることで損失を最小限に抑え、燃費向上などにも寄与します。

GKNのプルービンググラウンドの周回路では125km/h以上に達しないため、FFに切り替わる瞬間は確認できませんでした。担当者によると、125km/h以上に達するシーンがあってもドライバーは察知できないはずとのこと。

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ボルボ・カー・ジャパンによる試乗会を含めて何度かXC90 T8 Twin Engine AWDのステアリングを握る機会がありましたが、駆動輪の切り替わりなどが感じられたことは皆無といえるほどスムーズだったのを思い出しました。

今回のGKNプルービンググラウンドの周回路を走る試乗でも、運転席と後席に座り、走行状態によりFF、FR、AWDが切り替わる様子をインパネのディスプレイで確認しながらテスト。駆動状態が切り替わる様子はディスプレイで確認しない限り、ドライバーが運転しながら感じることはないことが確認できました。

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「eアクセル」は、ほかの自動車メーカーへの提案もされているそうで、今後は同システムを搭載したハイブリッド、PHVのe-アクセルAWDモデルが増えていくかもしれません。

(文/塚田勝弘・写真/小林和久、塚田勝弘、GKNドライブラインジャパン)

ハンドリングを変える、2輪駆動向け電子制御式トルクマネージャー【GKNドライブライン試乗会】

GKNドライブラインの最新技術説明会の試乗会で用意されたETM2(電子制御式トルクマネージャー)をご紹介します。

ETMは「Electronic Torque Manager」の略で、別の言い方をすると電子制御式LSD(リミテッドスリップデフ)ということになります。

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FF向けとしては、フォルクスワーゲン・ゴルフGTIに搭載されている電子制御式LSDである「電子制御式ディファレンシャルロック(XDS)」がすでに世に出ています。機械式と遜色のない締結力を誇り、またその介入ぶりも自然で、FFとは思えないコーナーワークを披露します。

現行GTI投入時のフォルクスワーゲンによるプレス向け試乗会では、富士スピードウェイにパイロンを置いた特設コースを設置。アンダーステアやコーナリングスピード低下の抑制を防ぐ同機能の効果を体感することができました。

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ゴルフGTIの電子制御式LSDは、オープンデフとLSDカップリング(差動制限機構)で構成されています。LSDカップリングはトランスミッションの外に配置されているため、トランスミッションの設計変更が必要になるのと同時に、LSDカップリングを置くスペースも要求されます。

また、LSDカップリングは油圧で作動するのでオイルポンプの駆動用モーターも必要となり、NVHと耐久性、制御装置のために特殊なオイルが必要になります。

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そこでGKNは、デフと作動制限装置を統合することでトランスミッション内に統合し、モーターによる直接駆動を目標と掲げ開発を推進。

小型化するには、LSD機能、アクチュエータと減速機構、作動ギヤ機構などの要素技術を採用し、制御ロジックの設定や台上試験、実車試験などでクラッチトルクの確認や応答性、異音や振動の確認、静的強度、フェイルセーフ機構の作動確認などが行なわれています。

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実車試験では左右スプリットμ路発進性、旋回性などが確認されたほか、ハンドリング路(プルービンググラウンド内)においてテストドライバーにより1.1秒という短縮データを得ているそう。

試乗車は先代マツダ・アクセラ(SPEED AXELA)で、試作車としてFWD(前輪駆動)用のETM2(電子制御式トルクマネージャー)が搭載されていました。

ETM2の制御「あり」、「なし」で試乗すると効果が絶大なのが分かります。作動させると、ノーズがインに向きやすくハンドリングの軽快感も高まっているように感じます。

さらに、アンダーステアが抑制され、姿勢を保ちやすくコーナリングスピードを維持しやすくなります。多少オーバースピードでコーナーに入っても切り増しすることでさらに曲がっていく感じは驚きでした。

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今回の2輪駆動向け「ETM2」は試作品で、量産は2018年から2019年あたりになりそうとのこと。省スペース化によりコンパクトモデルにも搭載できるそうですから、FFホットハッチなどに採用されればハンドリングの向上に寄与するのは間違いないでしょう。

(文/塚田勝弘・写真/小林和久、塚田勝弘、GKNドライブラインジャパン)

冬場のAWD車の応答性を向上させる、電磁式全輪駆動カップリング【GKNドライブライン試乗会】

ジョイントやサイドシャフト、AWDシステムなど、自動車駆動系システムの世界的なサプライヤーとして知られているGKNドライブライン。

10月末にGKNドライブラインジャパンによる技術説明会と、同社技術を搭載した車両の試乗会が栃木市のプルービンググラウンドで開催されましたのでご報告します。

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日本の自動車メーカーをはじめ、世界中に顧客をもつGKNドライブライン。技術説明は同社の概要にはじまり、CVJドライブシャフト(CVJ:等速ジョイント)、AWDシステム、eDriveシステム(ボルボXC90)などについて行なわれました。

用意されていた試乗車は、ETM2(電子制御式トルクマネージャー)を搭載したマツダ・アクセラ(先代のSPEED AXELA/6MT/試作車)、EMCD(電子制御式トルクカップリング)を搭載したマツダCX-5 AWD(試作車)、ボルボXC90 T8 Twin Engine AWD Inscription(eAxle搭載の市販車)。

いずれも顧客は自動車メーカーなどであり、我々ユーザーに直接届けられる商品ではありません。しかし、走行性能や安全性などの面で間接的に恩恵を受けていて、駆動系システムやソリューション(CVJシステム、AWDシステム、トランスアクスル、eDrive)などに欠かせない存在となっています。

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GKNは世界の90%というほぼすべての自動車メーカーと協業し、世界の自動車の50%が何らかの技術を採用しています。CVJ(等速ジョイント)とAWD、eDriveシステムにおいてシェアナンバー1を獲得。

まずは、今回発表された冬期におけるAWDの応答性向上から見ていきます。これはGKNが開発している、SUVやクロスオーバー車用の電磁式全輪駆動(AWD)カップリングによるもので、低温時における低ミュー路での応答性をさらに向上させる技術です。生産開始は2018年中に予定されているそうです。

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試乗車は「EMCD(電子制御式トルクカップリング)」を搭載したマツダCX-5(試作車)。低ミュー路(ミュー=0.3)に前輪を停車させ発進させてみると、何事もなかったかのようにスムーズにスタートし、ステアリングを取られることも皆無。数回試しただけでしたが、信頼性の高さをうかがわせるものでした。

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GKNのEMCD(電子制御式トルクカップリング)は、瞬時にAWD特性をコントロールすることができます。通常時は燃費向上のため前輪駆動の高効率を提供。最大500Nmまでのトルク出力に対応する技術で、後輪駆動プラットフォームでも高い人気を得ているそうです。

GKNでは車両センサーを分析し、発進時やコーナリング時、悪路走行時に前輪と後輪の間で効率的なパワーデリバリーに注力。後輪にトルクが必要になると瞬時に対応できるため、トランクション向上に貢献します。また、小型化されたEMCD(電子制御式トルクカップリング)は高精度な電磁制御を使い、走行状態に応じてカップリングのクラッチトルクを継続的に調整可能となっています。

(文/塚田勝弘・写真/小林和久、塚田勝弘、GKNドライブラインジャパン)