Motor Fan's YEAR 2016

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新型「NSX」に期待するのは発想の転換!?【ゆとり世代のチョイ乗り報告】

自分にとって最も古い記憶を遡ると、1994年、幼稚園での給食の時間にトマトを泣きながら食べさせられたことを思い出します。ちなみに、このトラウマのせいでトマトは今でも食べられません。

それはさておき……

つまり1990年の「ホンダ・NSX」の登場がもたらした熱狂をワタクシはそもそも知りません。しかし、スーパーカーブームやホンダF1全盛期をリアルタイムで経験し、1990年のあの光景を昨日のことのように思い出せる人にとって「NSX」は栄光と憧れであり、新型「NSX」復活のニュースは再び熱狂と興奮を呼び覚ました。

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とくに2013年の東京モーターショーでの光景は印象的で、「NSX」を噛る程度しか知らないワタクシには「NSX」を取り巻く光景は、さながら引退したアイドルが行なうライブのようだったことを覚えています。

この温度差には、個人差もあるでしょうが、やはりホンダのイメージに対するギャップも少なからず関係があると思います。

「NSX」の復活に血沸き肉躍る人のホンダ像が“スポーティな技術屋”なら、10代〜20代の中のホンダは「フィット」「ステップワゴン」そして「N-BOX」を開発した「アイデア豊かな発明家」でしょう。

だから、こうして新型「NSX」に触れられるとなっても、我を忘れるほどの熱狂と興奮は訪れるはずがないと……タカをくくっていた……のですが……、カッ、カッコイイ!!

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まずは、そのルックス。高剛性の押出成形アルミ材を中心とした複数素材によるスペースフレームをもつボディは、全長:4490mm×全幅:1940mm×全高:1215mmとワイド&ロー。ただ停まっているだけでボディを撫でる風が見えるようで、空力に愛されていることが伝わってきます。

さらに、6つのLEDが輝く切れ目のヘッドライトが放つ只ならぬ雰囲気は、なんというか、ワタクシの知るホンダ車らしくない。

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着座位置の低いシートに腰を下ろして眺めるインテリアも、センターコンソールに置かれたダイヤルやシフトセレクターなどが独創的かつ戦闘的。ワタクシの知るホンダ車のインテリアは、もっとこう……遊び心にあふれたアイデア収納が目立っていたような気が。

しかし、ステアリング外周から250mmの範囲にスイッチ類を配置することで操作性を確保したり、エアコンやナビゲーションは表示と操作性だけでなく質感までも慣れ親しんだものとするなど、あくまで実用性重視であることに変わりはないようです。

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次いでエンジンを掛けると、背中に積んだ3.5L V6ツインターボが迫力のあるサウンドを一発轟かせますが、動力はすぐさまモーターへバトンタッチして、獰猛な唸り声の代わりに電子的な音が車内を満たします。

前輪に2個、後輪に1個のモーターを搭載する駆動システム「SPORT HYBRID SH-AWD」や9速DCTといったメカニズム全体の連携がとにかく滑らかでスイスイと動き、この自然さがかえって不気味に思えますが、同時に技術の開発と研鑽がなければなし得ない業であることも十分伝わってきます。

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こうして新型「NSX」を見て触れるほどに、ホンダの言わんとするスポーティや先進性の姿が浮き彫りとなり、実感として感じられるようになりました。

とはいえ、新型「NSX」の車両本体価格は2370万円です。さらに製造台数は6〜8台/日で、日本に入ってくるのはとりあえず100台と少なく、その姿を実際に目にすることも手で触れられる機会は限られています。そして、これこそが課題だとも。

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ところで、現在公開されている映画『君の名は。』をご存じでしょうか?

興行収入100億円を突破するほどの大ヒット作品ですが、劇中でモデルとなった岐阜県飛騨市には連日多くの人が訪れています。そもそも飛騨牛や飛騨高山温泉などの名物と名所はありましたが、そこに「アニメ」という新しい架け橋ができたことでさらに多くの人を呼び込むことに成功しました。

そして、まさに新型「NSX」に必要なのは、かつての栄光やハイブリッドスーパースポーツという側面でのアピールだけでなく、様々なコンテンツとの間に架け橋を設けることではないでしょうか?

例えば、バーチャルリアリティ(VR)は大いに期待が持てる技術でしょう。すでにレーシングゲームへの採用も考えられているようですが、プロドライバーがニュルブルクリンクや鈴鹿サーキットなどを攻めるのを同乗体験できるといったコンテンツを無料で配信すれば、物は試しに……と興味を持つきっかけにはなるはず。

クルマ好きは「乗れば楽しさが分かる」と言いがちですが、実はそのハードルは想像以上に高いのかもしれません。そして「NSX」のようなモデルならなおさら。

いよいよ国内でのローンチを無事終えて一段落した新型「NSX」。新時代のスーパースポーツ体験(New Sports eXperience)がどのように広がるのか? 今後にこそ注目したいところです。

(今 総一郎)

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「718ボクスターS」の魔性を前に欲望は抑えきれない!?【ゆとり世代のチョイ乗り報告】

「選択と集中」という言葉を聞いたことはあるはず。

強みを活かせる分野にリソースを注ぎ込み成果を上げるものであり、特定の分野にお金を惜しまないというポリシーを持つ人は意外と多いです。

かくいうワタクシはファッションやグルメには無頓着な一方で、クルマを妥協したくないと思っている次第であります。

そんなワタクシが理想とする1台は、見るたびに惚れ惚れするデザインと、血眼にならずとも速く正確に走れる性能と、優雅な乗り心地を兼ね備えたモデルであり、ポルシェのミッドシップスポーツカー「718ボクスター」と「718ケイマン」は選択肢のひとつとして注目していました。

さっそく購入を検討してみたわけですが、どうにも周囲の反応が冷たい。

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彼ら曰く、ポルシェオーナーは特別なスキルで富を得ており、一等地に築いた白亜の城には家族用と奥さん用のクルマが並べてあり、ポルシェは3台目でなければならないそうです。

それを聞かされたワタクシは意気消沈し、ポルシェは諦めて、みんなが選んでいる堅実なクルマを選ぶべきだと自分に言い聞かせました……

しかし、運命のイタズラか、目の前には「718ボクスターS」があり、その真価を自分の目で見極めるべきだと囁いているのです。

今回、用意された試乗車は「718ボクスターS」。

フロントバンパーのほか、ヘッドライトとテールライトの光り方や、リヤの「PORSCHE」ロゴを目立たせるようにするなど、これまでの雰囲気を壊すことなく、細部で違いが表現されています。

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むしろ中身の変化こそが目玉で、環境性能と動力性能を両立させたという水平対向4気筒ターボの新採用が吉と出るか凶と出るかが最も気になるポイント。

1988ccと2497ccと異なる排気量のうち、試乗車の「ボクスターS」が積むのは後者。ターボには低速度域での力強さを強める可変タービンジオメトリー(VTG)を採用するなどの専用チューンが施され、最高出力:350ps/最大トルク:420Nmを発揮します。

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さっそくエンジンを掛けると、部品ひとつひとつの細かな動きが奏でるメカニカルサウンドとマフラーから放たれる重低音が空間を満たし、回転数の上昇につれて音と振動の粒が揃っていくというハーモニーは健在。

走り出せば、1900〜4500rpmにかけて発揮される420Nmもの大トルクがもたらすスムーズな加速感や、路面の凹凸を見事にいなす足さばき、決してヤワな印象を抱かせない強靭なボディの剛性感も相変わらず。

それだけに、乗れば乗るほど心の中では「マイチェン前でも良いかも」という思いが膨らみつつありましたが、決断を下すには早かったようです。

今回の改良では、走行モードを変えるスイッチがステアリング上に移設されただけでなく、スポーツクロノパッケージ装着車には中央ボタンを押すと20秒間だけ最大ブーストが維持されるという新スキルが実装されています。

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ETCゲートのバーが上がるタイミングに合わせて何気なくポチッてみた瞬間、ギヤは1速まで落ち、メーター上では「20」のカウントダウンがスタート!

直感的にヤバイ雰囲気を感じ、そ〜っとアクセルに足を添えただけでも強烈なGがワタクシを背もたれに押し倒し、料金所から競走馬のように飛び出しました。

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残り時間が平穏に過ぎるのをじっと耐えようとも思いましたが、その強烈な加速でも一切ブレないステアリングに安心を感じたのも事実で、頭の奥底で「踏めぇ〜!!もっと踏むんだぁーーーーー!!」と叫ぶ自分がいる(チョット大げさ)。

残り19秒。覚悟を決めて、アクセルをググ〜ッと踏み込んでいく。エンジンを車体の中央寄りに配置するミッドシップレイアウトの前後重量は(前軸:630kg、後軸:780kg)と後ろが重めで、加速時はさらに荷重が車両後方へ加わるのですが、前輪の手応えはなくならず、ビタッと張り付いているような感覚はそのままに速度だけが上昇。

7速PDKが瞬時にギヤを上げていき、爆音を置き去りにするかのように一直線に加速。まるで世界が止まってしまったかのような錯覚の中、走行車線を走るクルマを次々と追い抜かし……いや、取り残して100km/hに到達。

メーターに表示される「15」という残り時間を見て、そもそも0-100km/hが4.2秒という性能の高さに加えて、新スキルのぶっ壊れ具合にただビックリ!

これまでの「ボクスター」の歴史を塗り替える新型の実力に直接触れられた幸せを、頭上に広がる青空を仰ぎ、歓喜しました。

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そんな刺激的な一面だけでなく、エコ性能の向上も新型の見所。

7km/hを下回ると作動するアイドリングストップ機能はもちろん、7速PDK仕様の場合は高速道路の巡航で積極的にクラッチを離して惰性での走行を行なうのですが、再加速で一切のシフトショックを起こさずにクラッチを繋げるという妙技が見事。今回の改良でその走りの幅は広がり、さらに深みも増しています。

この素晴らしい走りの反面、安全性や利便性での進化は小幅に留まっています。

まず気になったのは、右ハンドルの場合にペダル全体が車体中央に寄っているために右足の圧迫感が強いこと。さらに、ルーフを閉じれば後ろ側方の視界は当然皆無。新しいナビもスッキリしたデザインは美しいですが、スマホと比べると反応は鈍い。是非とも左ハンドルを選びたいところです。

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結局のところ、ポルシェの代表選手「911」の弟分として登場したという生い立ちや、オーナーにふさわしいとされる“身の丈”を挙げるのは、クルマが富の象徴だった時代の名残を捨てられないだけなのでしょう。

純粋な目で「718ボクスターS」をみると、これはクルマ好きが存分に楽しむためだけのクルマでしかなく、良い家に住んで、美味しいご飯を食べて、ブランド物に身を包んでオシャレをすることは果たして前提なのでしょうか?

もしかしたら、危うく丸め込まれるところだったのかもしれません。しかし、納車の暁には、彼らはワタクシを取り調べるに違いありません。それに対してワタクシはこう答えます。

「欲望を抑えきれなかった……しかし、選択は間違っていなかった」と。

(今 総一郎)

【ゆとり世代のチョイ乗り報告】最後の6気筒!?「ポルシェ・ケイマンS」を試す(後篇)

先代モデルとなったポルシェ・ケイマンS、無事にドライバーズシートの権利を獲得し、いよいよ試乗です。

カエルに例えられる顔つきや滑らかな曲線のボディラインなど、車体を構成するすべての要素に只ならぬ雰囲気が感じられ、思わずニヤニヤ。

納車手続きの予行演習っぽく、必要書類を記入し、キーを受領。「911」のボディを象ったキーもお洒落で所有欲をくすぐります。

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低めの着座位置や素早く6速MTを操るために底上げされたセンターコンソールなど、ギュッとタイトなコックピットに収まると、自然と身が引き締まります。

ソワソワとした高揚感を抑えるために、目をつぶり、大きく息を吸い、静かに吐き出す。レザーが醸す香りや外の喧騒を感じさせない静謐など、カチリ…カチリ…と徐々に自分と「ケイマン」がシンクロしていく感覚が心地よいです。

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キーを挿してひねると、座席直後に搭載された3.4L水平対向6気筒自然吸気エンジン(325ps/370Nm)が、猛々しいサウンドを耳に、エンジンのピストン運動が刻む振動をシート越しに身体へ届けてきます。

ボディが強固な上にシートが肉厚なため不快感はなく、ドライバーはエンジンの確かな存在感を堪能できます。底知れない実力を漂わせるエンジンと自らの手中にあると感じる一体感に、ワタクシは勝利を確信しました。

しかし、誤算が。クラッチペダルが重すぎるほど重いのです。「フンッ!!」と気合いを込めるほど押し返そうとする力が強く、信号が多い都内では10分足らずで足はプルプル。

「せっかくのポルシェだからMT!」と意気込んでいたのですが、余計な手間を掛けずに完璧かつスピーディに変速をこなしてくれる7速PDKにしておけば……。

シフトノブ

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さらにいいますと、街中での乗り心地は決して穏やかではありません。

タイヤ(ピレリ P ZERO)が、フロントは235/35ZR20、リヤは265/35ZR20と横幅が広くそして薄い上に、車高が低いため、タイヤが接地する路面の凹凸がもたらすショックを和らげる余裕が少なく、路面の粗さで乗り心地は大きく左右されます。

ホイール&ブレーキ

しかし、ポルシェのスゴイ所は、そういった外乱を受けた際にボディとステアリングがビクともしないことです。

街中でも高速道路でも、強めのショックを後々まで残さない。たとえ路面が酷くてもステアリングは1mmの動きさえ見逃さずにたちまちクルマの向きを変えるため、第一声に「しっかりしている」という感想を挙げたくなるのも頷けます。

搭載する水平対向6気筒自然吸気エンジンは、アクセルを緩やかに踏み込めば、それに呼応するようにモリモリとパワーとサウンドは高まり、1370kgの車体を突き抜けるように加速させていきます。

370Nmの最大トルクは4500〜5800rpmと高めの回転域で発生させますが、かといって低回転域で加速が弱い心配は無用。

新型「ケイマン」の2.0L水平対向4気筒ターボは380Nmを1950〜4500rpmで、2.5L水平対向4気筒ターボの「ケイマンS」は420Nmを1900〜4500rpmで発揮させると聞くと、その走りへの期待は高まるばかりです。

ただし、あと一歩踏み込んで欲しいのが安全装備です。

自動ブレーキはなく、後ろ側方の死角に入り込んだクルマの存在を警告する機能もありません。この点については競合モデルに劣っていると言わざるを得ません。

それに真っ赤なインテリアはフロントウィンドウへの反射が強く、トンネルの出口などの明暗が切り替わる場面では危ないなとも感じました。

多少の欠点はあるものの、それらを上回る美点には抗えないです。

街中では人目を引くデザインとブランドが、一歩離れた郊外では人目に触れない代わりに爽快な走りがオーナーを満たしてくれるのですから。

今回試乗した「ケイマンS」の自動車税は5万8000円と決して安くなく、その他の維持費は想像もつきません。

でも、どうせ払うなら気持良く払えるクルマが欲しくなりませんか? それはスポーツカーでも、ミニバンでも、軽自動車でも変わらないはず。そして「ケイマン」は間違いなくその1台であると断言できます。

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(今 総一郎)

【関連記事】

【ゆとり世代のチョイ乗り報告】最後の6気筒!?「ポルシェ・ケイマンS」を試す(前篇)
http://clicccar.com/2016/06/19/379143

【ゆとり世代のチョイ乗り報告】最後の6気筒!?「ポルシェ・ケイマンS」を試す(前篇)

環境や燃費への意識の高まりを受け、小排気量化(ダウンサイジング)とターボもしくはモーターによる補強は、全世界的なトレンドになっています。

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高性能スポーツカーも例に漏れず、ポルシェも2016年にその動きを加速させており、「911」は従来の3.4Lと3.8Lを3.0Lへ統一。最高出力は20ps、最大トルクは60Nm向上させながら、燃費を約12%も改善させました。

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さらに、今年6月にはオープンカーの「ボクスター」では、エンジンを2.0Lまたは2.5Lへ小型化してターボが取り付けられただけでなく、6気筒から4気筒へ気筒数が削減されています。

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その一方で、最高出力はいずれも35psアップしています。これを受けて、「ボクスター」の屋根をガッチリと固定したクーペモデルの「ケイマン」も同様の改良を実施。新型の受注がスタートしています。

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この変化に期待の声もあれば、戸惑いや失望を覚えている人もいるようです。

「俺たちが愛したポルシェは死んだ」と嘆く彼らにとって、エンジンの冷却形式が空冷から水冷に変わったことは言語道断で、「911」以外のポルシェは邪道。最新の「911」もサイズが大きく重くそして価格が高過ぎる、らしい……です。小排気量&ターボ化は、ワタクシが想像するよりも深刻なことなのでしょう。

しかし、昔からの「あれこれ」を知らない立場から見ると、今回の改良は前向きなものばかり。性能があらゆる方面で上がり、おまけに維持費のうち自動車税が下がったのですから。

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とはいえ、ボクスター&ケイマンも新車だとオプションも含めて最終的に総額は700〜800万円になるはず。

となると「ゆとり世代」のワタクシに限らず、ポルシェに憧れつつも予算が……という方々にとって、2013〜2015年式の「ケイマン」を中古で買うという選択が現実的なのではないでしょうか?

それに空冷ポルシェの中古市場での高騰ぶりを見ると、水平対向6気筒の自然吸気モデルもいずれはプレミアが付くのかもしれません。

そんな折り、とある取材の顔ぶれにモデル末期の「ケイマン」の名が。これを逃してしまったら!? と思い、すかさず立候補。無事にドライバーズシートを奪取し、滑り込みで試乗のチャンスを獲得。その魅力や如何に?

【後篇】へ続く……

(今 総一郎)