Motor Fan's YEAR 2016

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ジャガー・F-PACE、ライバルSUVの違いとは?

ジャガー初のSUV「F-PACE」は、ジャガーXE、XFというDセグメント、Eセグメントのセダンをベースに仕立てられています。

駆動方式はAWDで、前後駆動配分をデフォルトで「前1:後9」としたFRベースのAWD。なお、ドライ路面での通常走行なら0:100の後輪駆動になります。

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F-PACEのボディサイズは、全長4740×全幅1935×全高1665mm。ライバルのポルシェ・マカンは全長4680×全幅1925×全高1625mm、BMW X3は全長4665×全幅1880×全高1675mm、アウディQ5は全長4630×全幅1900×全高1660mm。

ロングノーズ&ショートデッキのスポーツカーのようなフォルムが特徴のF-PACEだけに全長はライバルよりも約50〜100mm長く、全幅も最もワイドになっています。

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クラス最長のホイールベースと大きなボディの恩恵は、ダイナミックな外観だけでなく、とくに後席のフットスペースの広さに直結。上記のライバルよりも余裕は明らか。全高の余裕を活かして後席の頭上空間も十分に取られています。

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荷室容量は通常時508L(本国仕様はパンク修理キットにより650L)で、SPACE(スペース)からも由来する車名の「F-PACE」の名に恥じない広さを確保。

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エンジンは、180ps/430Nmの2.0Lディーゼルターボと、340ps版と380ps版を用意する3.0L V6スーパーチャージャーを用意し、8ATとの組み合わせになっています。

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ライバルは、2.0Lガソリン(184ps版、245ps版)、2.0Lディーゼル、3.0L直列6気筒を揃えるBMW X3のエンジンラインナップが最も充実していますが、F-PACEのディーゼル、ガソリンはスペックもフィーリングもトップクラスの魅力を備えているといえそう。

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最後発のF-PACEがライバルに挑むため、性能面も使い勝手などの面でもリードするのは当然でしょう。もし物足りない点を探すなら、インパネの質感がもう少しに感じるのと、10.2インチタッチ式ディスプレイの操作感の熟成不足あたりくらいでしょうか。

(文/写真 塚田勝弘)

ジャガー・F-PACE、買うならガソリンかディーゼルか?

前後のトルク配分をデフォルトで「前1:後9」としているジャガーF-PACE。

リヤが力強く蹴り出す走りの姿勢と、舵角、速度域を問わず違和感を抱かせない電動パワステの仕上がりの良さ、走りと乗り心地の高いバランスなどが際立っています。

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ボディの80%にアルミを使った軽量ボディ、サスペンションもアルミ化した恩恵を感じさせる点で、そこに完成度の高さを感じさせるパワートレーンも加わりますから、走りの面では短時間の試乗だと大きな欠点を察しさせない完成度になっています。

試乗したのは、340ps/450Nmの3.0L V6スーパーチャージャー搭載車と、「INGENIUM(インジニウム)」と呼ばれる2.0Lの直列4気筒ディーゼルターボで、いずれもZF製8ATとの組み合わせ。

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ほかに、380ps/450Nmを誇る3.0LガソリンのV6スーパーチャージャーも控えていますが、今回は乗る機会がありませんでした。

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最量販として期待されるのは、2.0Lのディーゼルターボでしょう。

輸入車を中心に日本でもディーゼルが根付きつつあるいま、しかもその傾向が強いSUVですから639万〜728万円という価格面も含めてディーゼル仕様を指名する人が多いはず。

なお、3.0LのV6スーパーチャージャー搭載車は849万〜981万円(カタログ。導入限定車のぞく)。

430Nmもの最大トルクを誇るだけあって、大柄なF-PACEでも不足は全く感じさせません。最大トルクを発揮する4000rpmまで濃密なトルク感をもって車速を引き上げていきますし、勾配でも力強さを堪能できます。

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8ATのスムーズさはもちろん、シフトアップ、ダウンを感じさせない黒子役であるのも好ましく感じますし、必要があればパドルシフトで操作すればストレスのない変速も可能。

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一方の3.0L V6スーパーチャージャー搭載車は、340ps仕様(最大トルクはいずれも450Nm)であっても痛快な加速フィールを味わえます。

軽快なフットワークとの相性の良さ、走りの楽しさではディーゼルを上回っている印象を受けました。

スーパーチャージャーらしく低速域からの力強さに加え、高速域の伸びも、再加速する際のパンチ力も強烈そのもの。ディーゼルよりも約200万円高い理由は、ガソリンとディーゼルを乗り比べてみるとまさに実感させられます。

もし、予算が許せばガソリンを指名したいところ。しかし、ディーゼルでもフロントの重さをほとんど意識させない、F-PACEらしい切れ味のあるハンドリングを堪能できますからご安心を。

(文/塚田勝弘 写真/ジャガー・ランドローバー・ジャパン、塚田勝弘)

新生ジャガーらしい走りを味わえる初のSUV「F-PACE」

ジャガー初のSUVである「F-PACE(エフ・ペイス)」のデリバリーが7月下旬から開始されています。

ランドローバー部門を擁するジャガー・ランドローバーだけに、ランドローバーとの違いはどうなんだろう? といったあたりが気になるところです。

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レンジローバー・イヴォーク、ランドローバー・ディスカバリー スポーツがエンジン横置きのFFベースとなっているのに対し、ジャガーF-PACEはFRベースで、プラットフォームはセダンのXE、XFのそれをベースとしたものとなっています。

同じ4WDといってもFF系とFR系の違いがあるわけですが、駆動方式はもちろん、それ以上にF-PACEはスポーティな走りで驚かされます。

とくに、ZF製のラックを採用している電動パワーステアリングの手応えがナチュラルで、直進安定性とフットワークを見事に両立しています。

回頭性の高さもFR的な挙動で運転しやすく、着座位置が高めでロングノーズであることを少し意識させられること以外、SUVという形をしたスポーツカーに乗っている感じがします。

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F-PACEの開発陣は、ポルシェ・マカンをベンチマークとしたそうですが、中低速域から高速域までハンドリングを楽しめるのは甲乙付けがたいところ。

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よりスポーティな味付けという意味で「わかりやすい」のは、マカンのような気がしますが、ジャガーF-PACEも十分にホットな走りが楽しめますし、乗り心地の良さも試乗車の19インチ、20インチであっても納得させられる仕上がりとなっています。

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ハンドリングと適度に引き締まっていながら乗り心地が良い点などは、最近のジャガー各モデルに共通するもので、SUVのF-PACEはそのバランスがさらにブラッシュアップされています。

(文/塚田勝弘 写真/ジャガー・ランドローバー・ジャパン、塚田勝弘)

【ジャガーF-Pace試乗2】ディーゼル版のINGINIUMエンジンの秀逸は何より静粛性だろう

日本仕様の搭載エンジンは、「INGINIUM(インジニウム)」と呼ばれる最新の2L直4ディーゼルターボと、3Lスパーチャージャー付V6ガソリンの2種。

パワースペックは、前者が180PS/4000r.p.mと43.8kgm/1750~2500r.p.m、後者には340PS/6500r.p.mと45.9kgm/3500r.p.mの標準型と、380ps/6500r.p.mと46.9kgm/3500r.p.mのHP版がある。

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トランスミットは、全車8速ATにIDD(インテリジェント・ドライブライン・ダイナミクス)採用のトルクオンディマンド式AWDを組み合わせている。

これ、通常は後輪へ90%の駆動トルクを送るが、走行状況に応じて、それを最大90%以上前輪に移行できる4駆システム。

で、今回試せたは“普通のV6“とインジニウム仕様の搭載モデルでありました。

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V6ガソリン版の試乗車は、255/50R20インチタイヤを履く35t R-Sport。L4ディーゼルは255/55R19を履いた20d Prestigeのご指定であります。

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80%のアルミ材と2%のマグネシューム部材、残り18%が各種鋼板という構成のハイブリッドボディは、走り出した瞬間に判るほどボディコアにガッシリとした剛性感が漲ってる。おまけに、前後の軸荷重配分が50:50というスポーツカー並のバランスも効いているんだろう。

2t近い車重を全く意識させることなく、軸ブレしない滑らかさで走り出せる感触が、実に印象的だ。躾けの好い電動パワステの感触はもとより、シャーシにはトルクベクタリング・バイ・ブレーキング、インテリジェント・ドライブイン・ダイナミクス等、安定して止まる、曲がるを支援するための「寿限無の黒子」が緻密に配備されていて、それらが巧みに連携し合う事により、F-PACEに爽快な走りと弛まないフィット感をもたらしている。

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脚の動きには、柔軟な関節に抑制感一杯の張りある筋肉が躍動している如きイメージが常にある。けれど、古典的なジャガーの猫脚とは最早次元の違うボディ体幹の強さが、無駄な多々良踏みを尽く吸収して不快や不安を操者に与えないのが、今様だな。

操作に呼応するインフォメーションが実に適切で、挙動を即座に掴めるから、とにかく積極的に走り込めるし、穏やかに走りたい時にも生きた路面の突然の変化に脅かされることが少ない。

試乗を通じて、「御者に極め付け忠実性の高い乗り物」という印象に終始した。

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3Lの340PSと45.9kgm仕様エンジンは、スーパーチャージャーの奏でる勇ましいサウンドはさておき、全域に滑らかで応答性も素早い部類といった印象。力感自体も、走行状況に応じた緻密なパワー制御に加え、2t近いボディ重量もあってか、持て余すほどのものではない。

8ATの制御に委ね右足の感触で操る範囲なら、万事安心感に満ちた過不足ない心臓だ。もちろんダイナミック・モードやマニュアル・セレクトで、美味しいパワーやトルクの波を目一杯たぐり出せば、御望みの「豹変」も可能ではある。

そういう時も、件の黒子軍団が必死にあちこちで働いていてくれるから、いわゆる「意のままの運転」のまま、ハイアベレージのペイスを稼ぎ出すことができる。

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方や、ディーゼル版のINGINIUMエンジンの秀逸は何より静粛性だろう。直噴のノイズレベルはオープンボンネット状態でも同等排気量のガソリン直噴に劣らない。

ディーゼルとしては異例に静かなアイドリングだ。走り出してスロットルを開けていく過程も、ノイズというより寧ろ心地よい部類のサウンドと表現できる類で、ネガなイメージに一切触らない。素敵だねぇ、これは。

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惜しむらくは3点あり。

常用性面で感じる発進トルクの、やや薄い点。加えて、日本の一般道の常用域(40〜60Km/h範囲)において、パーシャルから加速体制に入る場合などに示される、ATシフトモードの不適応感、かな。

それに、試乗車に装着の19インチタイヤの感触がやや、粗い…。

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先ず、アイドルから踏み込んだ時に感じさせるトルクの薄さは、2Lキャパのシングルターボ・ディーゼルのポテンシャルとしては未だ払拭しにくい宿命だろうから、このタメは覚悟して堪えられる範疇ではある。

走り出してしまえば加速は驚くほど滑らかで、文字通り広いトルクバンドを掴んでしまえば、寧ろ十分に力強く感じるから。

だけど、要するに1500rpm+の巡行領域からアクセルを踏み込んで加速を所望する場合などは、もう少々積極的に、かつ滑らかにAT側がトルクのボトムを補う制御をして欲しい、って感じ。

まぁ、そういう時はマニュアルでギヤを落とすか、市街地では燃費効率に目を瞑ってATモードを予め「ダイナミック」にして走ればいいって話ではあるけれど。

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V6ガソリンに比べINGINIUMディーゼル搭載車、乗り比べると鼻先が軽く感じ、ワインディングでは身のこなしに優位性を感じさせる。のは魅力なのだけれど、19インチタイヤ装着の試乗車は若干だが、タイヤの縦バネ感が強い印象。舗装路面の状況によって、共振の収まりが悪かった点が惜しまれるところだ。

18インチや22インチ仕様は比較試乗出来なかったけれど、これだけ多彩なタイヤチョイスを可能としているわけだから、全方位に万全とは仲々いかないのかもしれない、けどね。

22in
22inch
18in
18inch

(鈴木誠男)

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【ジャガーF-Pace試乗 序章】Jaguarの歴史では英国の「いつかはクラウン」だった!?
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【ジャガーF-Pace試乗1】20世紀のジャガーと決別したイアン・カラム ジャガー
http://clicccar.com/2016/08/03/389990/

【ジャガーF-Pace試乗1】20世紀のジャガーと決別したイアン・カラム ジャガー

F-PACEのボディは、ほぼ同時期に開発されたEセグ・サルーン「二代目XF」のD7aアルミニューム骨格を基本にする。が、その81%は独自性を与えるため、専用にアレンジされたものだという。

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スタイリングはXF&XF Mk2と同じジャガーの現デザイン・デレクター、イアン・カラムの担当だ。

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99年に先任のジェフ・ローソンからジャガースタイリングの重いバトンを渡されたカラムだが、それまでの60年代を意識下とする懐古調のジャガーの造形エッセンスを、08年の初代XFを機に大幅に切り替えている。

シンプルな塊に観せながらも、広範囲に巧みなプレスラインの彫塑処理を図ることで途切れぬ緊張感を全身に保たせた、張りのあるカラム調のボディ造形は圧巻だ。中でも、ロングボンネットの先に収斂する短いオーバーハングに刻み込まれた開口の大きい3ピースグリルと、睨みの利いた切れ長のヘッドライトが相まって魅せる、躍動的で力感ある野獣の表情は見事だ。

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このカラム・ジャガーの趣には、それまでのどの世代のジャガーとも異なるモダーン、かつクールな佇まいがある。Grace、Pace、Spaceの押えるべき3点の基本も、カラムはモデルを追うごとに確実なステップアップを果たしつつある。

09年発表のトップレンジXJ(SWB)を、15年生まれのXF-Mk2は居住性の基本となるSpace面で明らかに抜き去っているからだ。

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そのXFの派生形となるF-PACEは、サルーンが主体だったジャガーの体系を、間違いなく打開する次代への意欲作だろう。

カジュアルでスポーティかつモダーンな新世代ジャガーは、おそらく今後その主軸をXE&XFのサルーン系と、F-PACEを切り口として計画され、今後順次登場する幾つかのSUV系による二本立てで構築されるものになる、と予想できる。

2座スポーツのF-typeの行方は読みにくいが、その上でトップレンジのXJは一段とラグジャリーなハイクラス・スポーツサルーンへと発展することになるだろう。

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F-PACEの基礎造形を大雑把に言ってしまえば、XFサルーンの屋根を延した上で、Dピラーをキックアップさせてハッチバック化し、SUVならではの嵩高いアピアランスを持たせたものだ。

この技法の応用により、シューティングブレーク的なミドルレンジワゴンの誕生も、近い将来十分に予想できる。

対XF比で言うと、F-PACEのサイズは全長-234mm、ホイールベースで-86mmそれぞれ短いが、全幅は+56mm拡く、全高も+212mm高い。乗員の着座ポジションをボディ高の増加を活かして見直したおかげで、キャビンは内側に喰い込ませたリアドアの厚みにも関わらず、特に長手方向に結構なゆとりがある。

ホイールベースの短縮にも関わらず508L(左右後席を畳めば最大1598L)のブートスペースが確保でき、かつオフロード走行を見越したオーバーハング長の最適化も合わせて実現している点は、流石だ。

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ボディ側面は、側突耐性を確保するストロークを、膨張では無く内側に飲み込ませる技法を基本に構築したために、ドアは相応に厚い。

けれど、ピラーを悪戯に内側へ絞り込んでいないため、側面をスクエアに切り立てたそれは、ショート・ボブの髪型みたいにスリークで涼し気だ。車幅をつかみ易い気遣いを感じさせるまとめが、好い。

ボリューミーなカイエンやマカンのそれとは実に対照的だ。

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惜しむらくは、リアエンド周辺の処理で、些か実用面での纏りを無視した感が残り、運転席から確認させる後方が遠方視点寄りにして視野が狭い点が難、だと感じた。

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XFに似たインテリアの印象は、正しく20世紀のジャガーと決別した風情。これぞカラムの描くクールの具象なのだろう。

が反面、「古典的なジャガーの世界」を些かなりとも身を置く空間に望みたい向きには、モダーンがドライに過ぎて、「色気や艶、湿り」等が思いっきり排除されている感は、如何にも惜しい。

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VWとアウディ、レンジローバーとランドローバーの持分を参考に想えば、独行ゆえに新世代ジャガーブランドの居住空間の設えに関する試行錯誤、まだ最適解に到ってはいないような気がするのだが、いかがなものだろう

(鈴木誠男)

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【ジャガーF-Pace試乗 序章】Jaguarの歴史では英国の「いつかはクラウン」だった!?
http://clicccar.com/2016/08/03/389819/

【ジャガーF-Pace試乗 序章】Jaguarの歴史では英国の「いつかはクラウン」だった!?

ジャガー・カーズの前身は、今から94年前に創業の側車(オートバイのサイドカー)屋まで遡れる。けど、そこまで振り返ると物語が壮大に過ぎて、今のジャガーとの脈絡図り難くなる。

XJ12
XJ12

クルマの側から眺めて今のジャガーの基礎体系を固めたモデルは、いささか乱暴な言い方だけど1968年に発表されたXJ6(&12)シリーズじゃないか。

歴代ジャガー・モデルに共通するコンセプトはGrace(優雅さ)、Pace(速さ)、Space(広さ)って事だが、XJはまさに何処を切っても、そつなくそれ等の持ち味を備えていた。ただしそれは、70年代以前の価値観に照らしてだけれど。

此奴ぁ86年まで18年間もシリーズを重ねて作り込まれたんもんだが、同時にそれはイギリスの経済不況の只中で築かれた足跡だから、輝きだけで無く多くの時代の影も背負いこんだ作品て事も言える。

まぁ工業製品として診ると、電気系統の脆弱さとか、日本の気候ではオーバヒート例もかなりあって、全般に信頼性は褒められたものでは無かったなぁ。でも、WW2を境に徐々に失われて行った幾つかの「英国製高級車ならではの風情」を、比較的身近に感じさせる存在として初代XJは、大きな役割を果たした。同時代のR.Rやベントレーも「信頼性の内実は大差ないレベル」なんだけど、価格は一層高かったから。

XJ6&12シリーズこそ70〜80年代のイギリスを代表できる「現実的な高級車?!」だった点は、おそらくは誰も否定できないと思うけれど。

XJ40
XJ40

このXJに、機械的信頼性がもたらされるのは86年発表のXJ40かな。これが実質的に創業者ライオンズの承認した最後のジャガーだね。その後XJは、94年のX300系を経て、2003年にフルアルミモノコックボディのX350に発展する。

XJ8(X350系)
XJ8(X350系)

で、ここまでのXJジャガーの立ち位置、日本車でいうところの「いつかはクラウン」に近いかも。

まず違う点から言うと、ジャガーはドライバーズカーの性格が強く、クラウンは概ねリヤパッセンジャーサイドのクルマという感じ。搭載エンジンや装備によって価格差はかなり幅が大きく、上級モデルは専ら個人所有車に、ベーシックから中級モデルはジャガーの場合、カンパニーカーって呼ばれる「企業の管理職級に貸与される社用車」需要に生産が支えられていた。

クラウン等が、その頃の日本を代表する高級車だった一方、タクシーやハイヤー等の特定需要に支えられていたのに似ているだろう。

現行XJ(X351系)
現行XJ(X351系)

以上のベクトルが明確に変化し始めたのは、比較的最近のこと。

XJ系で眺めれば09年に発表された現行X351系からだけれど、それはむしろ、その前年に発表された一回り小さいX250(初代XF)の方に、より意味が大きかった。

経営母体がいくつも変転したジャガーだけど、フォードに時代を経て現在のタタ・モータース傘下に収まったのを機に、以降ジャガーのモデルコンセプトはかなり大きな方向転換を図ってる。

一言で言えば、それまでのオフィシャルやビジネスライクなスタイル重視とは趣が違う、プライベートカーとしてのカジュアルでスポーティなスタイリスト、とでも言おうか。初代XFは、まさにその先鞭を打ったモデルだろうな。

勿論、ドライバーズカーである事の軸足は何一つ外さない。のだけど、ジャガー全体のイメージがそれ以前よりモダーンで軽快、かつ様々なステージにマッチできるクルマへと柔軟に変貌を遂げたわけだ。

その一環として、より広いフィールドでジャガーならではの持ち味を満喫させる、舗装路から踏み出せるジャガー初のクロスオーバーモデルが、「F-PACE=エフ-ペイス」として生まれ出たって話だ。

勿論そこには、Grace、Pace、Spaceという、ジャガーの基本理念が、新しい時代と多様な環境にマッチできる形としてアレンジされ、確と受け継がれている。

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(鈴木誠男)

SUVに「Fタイプ」の要素を採り入れたスポーツへのこだわり ─「F-PACE」画像ギャラリー

ジャガーXE、XFとプラットフォームを共有し、ボディの約80%にアルミニウムを使用したジャガー初のSUV「F-PACE」。

全長4740×全幅1935×全高1665mmというサイズは、全長4610×全幅1895×全高1725mmというディスカバリー・スポーツよりも全長と全幅はひと回り大きく、全高は60mmも低い「ロング&ワイド&ロー」といったフォルムになっています。

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外観の見どころは、ジャガーが誇るピュアスポーツのFタイプの要素を採り入れている点。

ボンネットのV字に近いライン、ボンネットからリヤまで連なる複数の連続的なサイドラインなどのプレス技術により、シンプルで力強い印象を演出したとしています。

足まわりは、ジャガーXE、XF同様にフロントにダブルウィッシュボーン、リヤにインテグラル式サスペンションを採用して、ハンドリングと乗り心地の両立が図られているほか、電動パワステやトルクベクタリングを採用。

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ほかにも、トルクオンデマンド式4WDを補完するインテリジェント・ドライブライン・ダイナミクス(IDD)がトラクションと車両安定性に寄与するほか、滑りやすい路面でも一定速度(3.6km/hから30km/h)で走破できるオール・サーフェイス・プログレス・コントロール(ASPC)などが搭載されています。

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インテリアでは、XF同様に10.2インチ静電式タッチスクリーンのインフォテインメントシステム「InControl Touch Pro」などが見どころ。

ジャガー初の装備では、自動緊急ブレーキ(AEB)に待望の歩行者検知機能を追加。乗降を助けるディプロイアブル・サイドステップ、リストバンド型アクティビティキーをオプションで設定。

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なお、このウェアラブル技術を活用したキーはウォータープルーフ仕様になっていて、マリンスポーツなどのアウトドアシーンで濡れても車両の施錠/解錠が可能となっています。

(文/写真 塚田勝弘)

【関連記事】

ポルシェ・マカンをターゲットに据えたジャガー初のSUV「F-PACE」が登場
http://clicccar.com/?p=378750

ポルシェ・マカンをターゲットに据えたジャガー初のSUV「F-PACE」が登場

2016年1月から5月までの5か月間で、前年同月比2.6倍というセールスを記録しているという絶好調のジャガー。

牽引役はXEやフルモデルチェンジを受けたXFなどでしょうが、6月13日にジャガー初のSUV「F-PACE」が発表されました。

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プレス発表は荒天のため翌14日に延期され、晴天下で開催されました。発表会が延期になったのは、特設の円形バンクをグルグルと回るパフォーマンスを披露するためもあったのでしょう。雨で濡れた中、強風では確かに危険だったかもしれません。

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また、ジャガー・ランドローバー・ジャパンのマグナス・ハンソン社長が海外出張のため不在になってしまい、前日、暴風雨の中で撮影されたビデオでの出演となりました。当日は、マーケティング・広報部ディレクターの若林敬市氏がプレゼンを行いました。

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すでに受注が開始されていたローンチ記念限定車の「F-PACE FIRST Edition」は、インポーターとしては売り切れ状態。正規販売店に在庫があれば買えるかも、という状況のようですから気になっていた方は急いだ方が良さそうです。

ジャガーF-PACEの開発途中にポルシェ・カイエンが発売され、ジャガー・ランドローバーの開発陣は一層開発に熱が入ったそうですが、「ジャガー」ブランドで出すだけに単なるSUVではなく、「パフォーマンスSUV」を謳っています。

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見どころは、ボディのじつに80%にアルミニウムを使った軽量モノコックボディ。

エンジンも180ps/430Nmを誇る2.0Lの直列4気筒ディーゼルターボをはじめ、3.0Lガソリンスーパーチャージャーは340ps版と380ps版(最大トルクはともに450Nm)の3つを設定するなど、抜かりのない布陣。トランスミッションは全車8ATとなっています。

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ライバルと意識しているポルシェ・マカンはSUV離れした切れ味鋭いハンドリングが魅力ですが、マカンは1830kg〜1980kgという車両重量で、F-PACEは1920kg〜1980kgという重量。

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F-PACEには、先述したように430Nmという最大トルクを誇るディーゼルがありますから価格も含めてマカンにするかF-PACEにするか悩む方もいるかもしれません。

なお、価格は2.0Lディーゼルターボ搭載車が639万〜728万円、3.0L V6スーパーチャージャー搭載車が849万〜981万円で、限定モデルの「F-PACE FIRST Edition」は1108万9000円です。

(文/写真 塚田勝弘)