Motor Fan's YEAR 2016

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スズキ・アルト・ワークスとホンダ・S660、乗り比べてみると?

2シーターのホンダS660よりも160kgも軽いスズキのアルト・ワークスは、どこから踏んでも加速していく印象を受けます。「軽」という括りだけで、駆動方式やドア枚数、シート数など異なる2台を比べるのはどうかと思いますが、本格的な軽スポーツを目指したという点でも共通します。

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64ps/6000rpm、100Nm/3000rpmというスペックを、ホンダS660の64ps/6000rpm、104Nm/2600rpmと比較すると、ピークパワーは軽の自主規制値いっぱいなのは当然として、最大トルクのわずかな差と回転数の違い、もちろんギヤ比や5MT(アルト・ワークス)と6MT(S660)という差を考慮しても「軽さ」によるアルト・ワークスの加速感が印象に残るのは当然なのかもしれません。

S660_01一方で、乗員の背後にエンジンを積んでいるS660とボンネットの下に積むアルト・ワークスとでは、音・振動面を含めた回り方までエンジンそのものの存在感が異なり、S660の方がより軽快に回るような気がします。

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S660のエンジンマウントが緩いためか振動が大きめという点を除けば、絶対的なパワーはなくても走りを楽しめる、しかもミッドシップという難しさは公道の常識的な速度内、ドライ路面なら感じさせないのが美点。

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たとえば、同じリヤエンジンでデビューが近いスマートと比べても(ボディタイプも車格も違いますが)S660の方がフロントの接地感が高く、ステアリングから伝わる情報も明快なのが印象的です。

さて、5MTのアルト・ワークスに戻りますが、クロスレシオ化されたことで短い距離(時間)であっという間に5速に入ってしまい、やはり6速が欲しいところ。回転の落ちが少ないので非常に走りやすいのはいいですが…

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足まわりの良さは、基準車のアルトからしてそうですが、ターボRSよりもさらにスポーティな味付けにしたことで、乗り心地は硬めです。ただし、コーナーでのロールはもちろん感じるものの、そこから腰砕けになることなく、ロール初期から減衰させることで確かな接地感を狙っているというコーナーワークも、少なくても公道レベルでは軽離れした作り込みに感じます。

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回頭性ではさすがにS660にはおよばないものの、FFでも最も楽しめるのはワインディングというステージなのは間違いありません。一方で走りに特化したスポーツモデルとはいえ、難点は大幅な軽量化の副作用というべきか、音・振動面は目をつぶる必要があるでしょう。

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ちなみに5速100km/hでの回転数は4000rpm近くまで高まることもあって盛大なエンジン音に見舞われる中、メーターに目をやると高速道路では巡航時でも20km/L前後の燃費がようやくで、回していると10km/Lにも届かないのも玉に瑕といったところでしょうか。

(文/写真 塚田勝弘)

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アルト・ワークス(5MT)の動力性能、加速フィールはどうか?

アルト・ワークスとアルト・ターボRSのエンジン主要諸元を見ると、同じ改良型R06A型ターボで、VVT(可変バルブタイミング機構)が吸気側に装備され、圧縮比は9.1と同一。最高出力は自主規制値いっぱいの64ps/6000rpm、最大トルクはターボRSの98Nm/3000rpmから100Nm/3000rpmと2Nm(0.2kg-m)引き上げられています。

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最大トルクの増強は、冷却性能の向上が寄与しているそうで、冷却水制御温度を88℃から82℃に下げることで燃焼室温度の低減を図り、充填効率向上とノッキングを回避しているそうです。

なお、フロントバンパーの右側に、ワークス専用の外気口が追加されていますが、エンジンルームに外気を入れることで冷却効果を向上させるもの。

また、走りの印象を変える要素として、加速時のレスポンスディレイ(応答遅れ)をターボRSから10%短縮し、素早い加速フィールを得ているそう。

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2Nmの最大トルクアップと、アクセルレスポンスの10%向上というのは、ターボRSと乗り比べができれば良かったのですが、MTとAGSという違いもあり、乗り比べしたところでどれだけ差が分かったか怪しいところ。

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少なくともターボRSと同様に、670kgという超軽量ボディを加速させるにはシーンを問わず、また速度域を問わずどこでもグイグイと速度を乗せていくという、軽さの利点を存分に思い知らされたことです。

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最も得意とするワインディングはもちろん、高速道路でも流れをリードするのはたやすく(音・振動はかなりど派手なことになりますが)、おそらく速度リミッターから先もまだまだ加速が続いていきそうな気配も。

アルト・ワークスに乗った後日、高速道路を含めてホンダS660に久しぶりに乗る機会がありました。

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確かに、S660の軽自動車の領域を超えたような動的質感の高さは魅力ですが、駆動方式や最大トルクの差、ドアの枚数やシートの数などその成り立ちを度外視しても、S660の830kgと、アルト・ワークスの670kgの差は明らか。

速度リミッター前後で延々とクルージングする人は少ないでしょうが、痛快な加速感を味わうなら同じ64ps/6000rpmでもアルト・ワークスの方が上でしょう。

(文/写真 塚田勝弘)

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■アルト・ワークス(5MT)で最も気になった点とは?
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「アルト・ワークス」の進化ポイントと、気になるMTモデルの価格設定

待望されていたアルト・ワークスはアルト・ターボRSをベースに、5MTの設定や専用チューニングされたシングルクラッチのAGS(オートギヤシフト)、最大トルクの向上、レカロシートの装備、専用セッティングされた足まわりなど、ワークス専用チューニングが数多く施されています。

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1速から4速をクロスレシオ化した5MTは、2速にダブルコーンシンクロを採用し、操作荷重を専用設計してダイレクトかつ節度感のあるシフトフィールが実現されているほか、クラッチディスクの荷重特性の最適化など、クラッチミートの操作感まで追求されています。なお、アルト・ワークスの変速比はファイナルが4.705で、こちらはアルト・ターボRSと同じで、標準車は4.388となっています。

2ペダルのAGSは、トルコン付ATやCVTからの乗り替えだと違和感を抱く可能性が高いですが「シングルクラッチとしては」完成度は高く、ターボRS用よりもスポーティな変速マッピングとされているほか、シフトレスポンスを重視した変速チューニングにより変速時間を最大10%短縮しているそうです。

ワークスのAGS車には試乗する機会はありませんでしたが、パドルシフトも備わりますし、AT限定車でも同車のスポーティな走りが楽しめるのは間違いないでしょう。

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改良型R06Aターボエンジンは、冷却性能の向上により2Nmトルクアップが図られています。さらに、アクセルレスポンスの向上やターボ過給圧の高さに応じて、メーター内のインジケーターが白から赤に変化するなどの装備も用意。

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引き締まった乗り味と正確なハンドリングもワークスの魅力ですが、足まわりでは、フロントストラットの減衰力最適化によりロールスピードの低減、ダンピングの向上が図られています。

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リヤもダンパーの減衰力最適化で、ロールスピードの低減、ダンピングの向上が意図されているほか、ホイールのリム幅拡大(ターボRSの15×4.5Jから15×5J)により応答性の向上、EPSコントローラーの制御マップ最適化により、ダイレクトな操舵フィールが追求されています。

ダンパーはKYB製が採用されているほか、15インチの専用アルミホイールはENKEI製などスポーティなハンドリング、見た目も強化されています。

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外観ではカーボン調フロントバンパーアッパーガーニッシュ、ボディサイドデカール、専用リヤエンブレムなどを専用装備。

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内装では、本革巻ステアリング(レッドステッチ&ディンプル加工)、エアコンサイドルーバーリング(サテンメッキ調)、レッドステッチのシフトブーツ、ステンレス製ペダルプレート、そしてレカロ製フロントシートが用意されています。

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ひとつ気になるのは、MTの比率が高そうなアルト・ワークスですが、燃費(2WD)は5MTが23.0km/L。AGSは23.6km/LとAGSの方が若干良くなっています。アイドリングストップの有無(MTは未設定で、AGSに標準)という点が大きいのでしょうが、MTもAGSも価格は同じ。

さらに5MTは、レーダーブレーキサポートや誤発進抑制機能、エマージェンシーストップシグナル、ヒルホールドコントロール、エコクール、シフトインジケーター、フットレストなどが未設定となっていますので、価格面で少し差が付いても(AGSよりも安く)いいような気がします。

(文/写真 塚田勝弘)

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■アルト・ワークス(5MT)で最も気になった点とは?
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アルト・ワークス(5MT)で最も気になった点とは?

スズキ・アルトについに設定されたアルト・ワークス。アルト・ターボRSではなく、ワークスを待っていた方も多いでしょう。

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運転席に収まると気がつくのは着座位置の高さ。「レカロシート=低い」という思い込みがあるせいか余計に高く感じてしまいます。しかし、シートレールそのものはアルト・ターボRSと同じで、ほかに技術的な要因があるというわけではないそうです。

ただし、アルト・ターボRSに標準装備の運転席シートリフターは、アルト・ワークスには未設定で、ワークスがどういった基準でシート位置が決められたか分かりませんが(試乗する前と試乗時は)、後日試乗する機会があった標準車のアルトと比べても着座感は明らかに高めになっています。

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また、広報部にうかがうとワークスのレカロシートは、シートの形状やトルソ角などが「背筋を伸ばして座らせる」設計になっていることも着座位置やアイポイントの高さ「感」につながっているのでは? とのこと。

視界の高さは「スポーツモデルなのに高いとはけしからん!」という方もいれば、小柄な人にとっては前がよく見えていい、小柄でなくてもアイポイントは高めの方がいいなど、好みが分かれそう。

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私も「低く座って足を投げ出すような姿勢」になるのがスポーツモデルのお約束と思っていたため、違和感を覚えながら一般道や山道、高速道路まで時間の許す限り走ってみました。

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専用設計のレカロシート自体は「ホールド性の高さとロングドライブ時の快適性を兼ね備えた」と解説されていますが、個人的にはレカロの割にホールド性はそこそこで、おそらく後者も重要視しているのかな、という印象。

さらに、座面前端部のクッションの硬さを最適化(硬すぎない?)することで、ペダル操作性も向上させているとのこと。

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そのペダルは、クラッチは軽くもなく重くもないというところ。プレートスプリングの特性を見直すことにより、トルク伝達がリニアに立ち上がるクラッチ荷重特性とすることで、スムーズで力強い走りを実現しているそうです。また、クラッチディスクの荷重特性を最適化することでミートポイントも分かりやすくなっていて、クラッチ操作そのものも楽しめるように設計されています。

5MTは1から4速をクロスレシオ化し、トルクバンドを持続させるつながりの良いギヤ比に、ショートストロークシフト化とレカロシートに合わせたシフトノブ位置の最適化が図られているそう。シフトフィールは短いストロークで決まりやすく、ホンダS660とは異なる剛性感も味わえる印象です。

こう聞くと、レカロシートの位置決めが高く感じるのは、MTのシフトノブとの位置関係もあってのこととなりますが、背の高い人が同モデルに乗るとヘッドクリアランスの心配も出てきそうです。

(文/写真 塚田勝弘)