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ブラジルのエタノール燃料に対応! 日立オートモティブシステムズ製の高圧燃料ポンプをVWが採用

日立オートモティブシステムズは、ブラジルでのエタノール燃料に対応した高圧燃料ポンプが、ドイツ自動車大手のVWに採用されたと発表しました。

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(画像:日立オートモティブシステムズ)

ブラジルでは、1973年の石油危機を契機とした「国家アルコール計画」で、サトウキビを原料とするエタノール燃料を使用するの車両が開発・販売されています。現在では、全自動車販売台数の約90%を、ガソリンにエタノールを混合した燃料を使用できるフレックス燃料車が占めるまで増加しています。

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(画像: バイオ燃料利用体制確立促進事業ホームページ)

ただ、エタノール燃料はガソリンと比べて腐食性や壊食性が高いため、自動車の燃料系統の劣化や損傷が発生しやすいことが課題でした。

日立オートモティブシステムズではこの課題に対し、適切な材料選定とポンプ構造の最適化で、部品の耐久性を向上させ、25メガパスカルの高燃圧と、100%エタノール燃料(E100)への対応を可能としました。

今回、日立オートモティブシステムズ製の高圧燃料ポンプが新興国で販売台数を拡大しているVWに採用され、VWがブラジルで生産する車両に搭載されることになりました。

日立オートモティブシステムズでは、高圧燃料ポンプをVWグループ向けに2004年から供給を開始しており、今後、中国をはじめ、ブラジルと同様の燃料事情を抱える新興国向けに、燃料系部品販売を増加させることを狙っている模様です。

(山内 博)

バイオエタノールを燃料に使った日産のレンジエクステンダーEV「e-Bio Fuel-Cell」は何がスゴイ?

SOFC(固体酸化物型燃料電池)の車載では世界初の試みとしている日産自動車の「e-Bio Fuel-Cell」。エタノール燃料を使った車上(水素)改質型のレンジエクステンダーEVという位置づけになります。

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今回の日産「e-Bio Fuel-Cell」のように、エタノールなどのアルコール燃料、ガソリンなどの炭化水素燃料を使った車上改質は、80年代後半から1990年代後半にかけて各自動車メーカーが研究してきました。

しかし、改質器の小型化や熱対策や耐久性、始動性や応答性などが解決できず、高純度の水素を使ったSOFC(固体高分子型燃料電池)へと収斂していったという流れがあります。

こうした課題は、日産が発表した「e-Bio Fuel-Cell」の課題でもあるのでしょうが、こちらでも紹介したように、FCスタックの熱対策や作動温度のさらなる低温下などにより、かつてとは状況が違うというのも「絵空事ではない」ことにつながっているようです。

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燃料となる100%エタノールやエタノール混合水は、ブラジル、アメリカ、タイなどの世界中で普及しているという状況もあります。

食料と競合してしまう(バイオエタノール生産か食料か)フード・コンフリクトという問題も、サトウキビなどの残渣からバイオエタノール生産に成功するなど、解決策も芽生えつつあります。

なお、エタノール混合水の比率は水が55%、エタノールが45%となっています。この比率は改質器でエタノール混合水から水素を取り出す際の化学式の主反応によるものだそうで、これ以上水の割合を増やしても反応はするが、効率が悪くなるそう。

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日産が発表した「e-Bio Fuel-Cell」は、100%エタノールもしくは水を混ぜたエタノール混合水を補給する燃料タンクが30L前後で済み、航続可能距離は600km以上。

60%前後という燃焼効率の高さも利点で、ガソリンエンジンが究極的には43〜44%というところを目指すとされていますから、1.5倍以上という効率の高さが目を惹きます。

日産の算出によると、Cセグメントクラスを前提としたランニングコスト(参考値)は、ガソリンエンジン車が9.0円/km、「e-Bio Fuel-Cell」が3.1円/km、EVが2.9円/kmと、EV並のコストで済むうえに、エタノール燃料もしくはエタノール混合水の補給もすぐ完了し、EVのように長時間充電する必要がありません。

ガソリンや水素よりもインフラの制約が低く、自分で補給することも難しくないため、日本だけでなく世界的にガソリンスタンドの減少にも対応できるほか、高純度の水素が必要なPFEC(固体高分子型燃料電池)を採用するトヨタMIRAIやホンダFCXクラリティなどのような高額な水素スタンドの必要もありません。

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日産では、同システムを短距離走行、長時間使用のデリバティブ・ユースを想定。バッテリーEVを軸に、エタノール燃料を使ったレンジエクステンダーEVでトヨタやホンダなどの高純度水素を使ったFCVに対抗する構えを取りつつあるといえそうです。

(文/写真 塚田勝弘)

【関連記事】

2020年にも実用化!? 商用バンを想定したバイオエタノール燃料使用の「e-Bio Fuel-Cell」技術
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2020年にも実用化!? バイオエタノール燃料使用の「e-Bio Fuel-Cell」技術

バッテリーEVを次世代エコカーの主軸に据えている日産自動車。

500km以上の航続可能距離を目指すなど、今後もバッテリーEVを主役と据えながらも、バイオエタノール燃料を使う、新しい燃料電池システム「e-Bio Fuel-Cell」の技術を発表しました。

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技術説明会では副社長の坂本秀行氏(下の写真左)、日産自動車 総合研究所所長の土井三浩氏(下の写真右)が同技術の利点などを解説。

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「e-Bio Fuel-Cell」システムは、バイオエタノール燃料を使うレンジエクステンダーという位置づけで、同システムを積んだプロトタイプもテストされているそうで、「絵空事ではない」と強調しているのが印象的でした。

今回、日産が発表したのは、バイオエタノール(100%もしくは、水とエタノールの混合水)をタンクに補給し、改質器により水素に改質、SOFC(固体酸化物型燃料電池)と呼ぶFCスタックが発電を行ってバッテリーに蓄電し、モーターによる電動駆動するというシステム。

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SOFC(固体酸化物型燃料電池)は、700〜1000℃(技術革新により年々下がっているが動作温度には700℃は必要)にもなる高温の固体電解質を使った燃料電池で、家庭用エネファームのひとつのタイプとしても採用。大阪ガスやトヨタ、アイシンなどにより化石燃料を使い、発電効率46.5%を実現しすでに市販化されています。

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SOFCは、酸素と反応する燃料であれば発電し、トヨタMIRAIが採用するPEFC(固体高分子型燃料電池)のように高純度の水素が不要で、純度の低い水素でも発電でき、コンパクトな車載システムの設計が可能というのが利点です。

さらに、高温で作動するため希少金属を使った高活性な触媒も不要というメリットもあります。

しかし、SOFCは発電効率が一般的に40〜70%(日産の同システムは60%)といわれている高さが魅力でも、700℃にもなる高温への対策が課題でした。そこで、FCスタックの材料をセラミックから金属ベースに変更をもくろみ、その目処が経ってきたことが、今回の発表に至った理由のひとつのようです。

なお、熱源があることは、常温と700℃の間を行ったり来たりするため、スタックが割れてしまうというデメリットがあります。

逆にメリットは「熱源を持つ」という点。バッテリーEVがヒーターなどを使うと航続可能距離が急速に短くなってしまうことからも分かるように、熱源の確保に心配する必要がないという、長短を併せ持っているのも特徴です。

ほかにも長短いくつもありますが、別記事でもご紹介します。なお、市販化は2020年を目指し、デリバティブ・ユースの商用車などが想定しているそうです。

(文/写真 塚田勝弘)