Motor Fan's YEAR 2016

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日立オートモティブシステムズ、11種類の先進運転機能を自動運転ECUに実装しテストコースで実証

自動車部品大手 日立オートモティブシステムズは、同社が開発中の先進運転機能(ADAS)を実装した自動運転ECU(電子制御ユニット)を実証テストしたことを発表しました。

写真は同社の自動運転ECUで、大きさは縦:142mm、横:202mm、高さ:37mmであると公表されています。

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発表によると、 低速先導車追従走行(渋滞運転支援)を含む11種類の先進運転機能を実装した自動運転ECUを車両に搭載し、同社の十勝テストコースで実際に車両を走行させる実証テストで、全ての機能が正常に作動したことを確認したとのこと。同社は2017年7月に自動運転ECUの販売開始を目指しています。

同社が実証テストした先進運転機能は下の表に示す11種類で、このうち8種類のアプリケーションについては、昨年の2015年度までに開発済みで、今回残る3機能の開発が完了したということです。

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今回、新しく開発された3機能は、高速道での渋滞時の走行を支援する、低速の先導車を追従走行する機能TJA(Traffic Jam Assist)、低速域で前車を追い越す機能 LSP(Low Speed Car Passing)、自動で車線変更する機能 ALC(Auto Lane Changing)を自動運転ECUで制御するアプリケーションです。

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すでに8月に新発売された運転支援機能「プロパイロット」を備えた日産セレナに、同社製のADAS ECUが搭載されていると発表しています。日産セレナに搭載されているADAS ECUにも、今回発表されたアプリケーションに類する技術が実装されていると思われます。

(山内 博・画像:日立オートモティブシステムズ)

既存車両にも先進の運転支援システムを搭載できる、パイオニアの「インテリジェント パイロット」

パイオニアは、デジタル地図を活用した「事故リスク予測プラットフォーム」 を構築し、後付け可能な先進運転支援システム「Intelligent Pilot(インテリジェント パイロット)」を開発したと発表しました。

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本システムは、個々の車両の状況に合わせて事故や危険を予測し、注意喚起や警告をすることができ、先進的な運転支援を後付けで実現できます。また、東京海上日動火災保険の自動車保険「ドライブエージェント パーソナル」(2017年4月から提供予定)に採用されます。

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パイオニアが開発した先進運転支援システム「Intelligent Pilot」の特徴は、「事故リスク予測プラットフォーム」を構築した点と、既存車両へ後付け可能な常時通信型車載IoTデバイスを開発した点です。

「事故リスク予測プラットフォーム」は、デジタル地図に信号やカーブなどの情報を加えたデジタル地図属性データに、「事故発生地点データ」や、パイオニアが蓄積した「急減速多発地点データ」などを重ね、さらに時間帯・天候・災害情報・車両の走行速度や運転傾向までも加味して統合的に事故や危険を予測します。

この「事故リスク予測プラットフォーム」にクラウドを介して常時通信するIoTデバイスを車両に搭載(後付け)して、リアルタイムなサービスを走行中の車両へ提供します。

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「事故リスク予測プラットフォーム」に繋がる車載デバイスには、広角車載フロントカメラが搭載され、撮影した画像を解析して、危険な走行状況を検知し、2インチ液晶ディスプレイとスピーカーにより画面表示と音声で知らせる安全運転支援機能を搭載しています。

また、ドライブレコーダー機能も搭載しており、衝撃検知時には前方画像の録画を行って録画情報をクラウドサービスに連携することも可能です。

車載デバイスには、GNSS(全地球型測位システム)、ジャイロ/加速度センサーが内臓されており、精度の高い自車位置を得ることができ、内蔵センサーで急加速や急減速などの運転状況を検知し、デジタル地図と連携してさまざまな安全運転支援が提供されます。

今回、パイオニアがこのシステムを開発したのは、新型車には次々に新しい自動運転機能やADSA(高度運転支援)システムが搭載されていることを踏まえ、既存車両にも後付けでドライバーの安全運転を支援するシステムが必要と考えたためです。

(山内 博・画像:パイオニア)

ADAS・自動運転の目に期待! 富士通、世界最高レベルのミリ波信号源CMOS回路を開発

富士通の研究機関である富士通研究所は、先進運転支援システム(ADAS)や自動運転の「目」を実現できるCMOSミリ波信号源回路を開発したと発表しました。

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今回富士通研究所が開発した車載レーダー向けのCMOSミリ波信号源回路は、76〜81ギガヘルツ(以下、GHz)の広い周波数域において世界最高速で周波数を変調できることが特長です。

この特長を聞いても、何がよくなるのか素人には分かりませんが、自転車と歩行者などのように速度の異なるターゲットを見落とす危険を無くし、時速100kmで対向する車両(相対速度時速200km)でも相手の距離と速度を検知できるようになるということです。

そもそもミリ波レーダーはADAS・自動運転の目の役割を担う技術の1つとして、夜間、霧や降雨、逆光など悪環境時に車載カメラの弱点をカバーする監視装置として開発が進められてきました。

ところが、現状のミリ波レーダーでは、ミリ波信号の周波数の速度を周期的に変調させるFMCW方式(Frequency Modulated Continuous Wave)によるものが主流で、同方式では歩行者と自転車のように速度の異なるターゲットが近接すると、片方を見落としてしまうという問題がありました。また、対向して走行する車両を検知できる相対速度は時速50km程度が限界でした。

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このような問題を解消するために、ミリ波信号の周波数の変調速度を高速化して、距離分解能や対象物の速度の検知範囲を広げることができるFCM方式(Fast-Chirp Modulation)の開発が試みられています。

今回、富士通研究所が開発した車載レーダー向けのCMOSミリ波信号源回路は、このFCM方式のミリ波レーダーのキモになる技術なのです。

新開発の高速度で周波数を変調できるミリ波信号を使う車載レーダーシステムでは、自転車と歩行者など速度の異なるターゲットの見逃しを防ぐことができ、時速200kmの相対速度で対向する車両を検知することが可能になります。

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しかも、併せて開発された4チャンネルCMOS送信回路と組み合わせることで、一方向の監視に限らず、車両の周囲全方向を高精度にスキャンすることが可能になるため、高速走行と周辺監視の両方を1台でこなせる車載レーダーの実現が期待できます。

今後富士通研究所では、高機能な演算を行うプロセッサーをワンチップに集積したミリ波CMOSレーダーチップの開発を計画しており、2020年以降の実用化を目指しているということです。

ADAS・自動運転の実現のためには、ミリ波信号を使う車載レーダーシステムひとつをとってみても、現状の技術では、見落としの危険、検知能力の限界があり、ADAS・自動運転を実用化するにはハードルが高いことが実感されます。

(山内 博・画像:富士通研究所)

独・コンチネンタルがアジア地域での先進運転支援システム(ADAS)の強化を発表

ドイツの自動車部品大手コンチネンタルは、アジア地域で先進運転支援システム(ADAS)を強化すると発表しました。

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今回のコンチネンタルの強化策は、

 1) 日本とインドでの開発能力を向上させる
2)フィリピンと中国でレーダーセンサーの生産能力を向上させる

ことの2点を柱としています。

同社はアジア地域の自動車業界について、全世界で生産される車両の半数以上をアジアの自動車メーカーが生産する車両であり、日本の自動車メーカーの生産台数が世界全体の約30%を占めており、アジアが世界の自動車業界で成長センターとなっているとしています。

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さらに2020年の東京オリンピック開催を契機に、 日本の自動車メーカーを含む世界中の自動車メーカーが自動運転を含むADASという革新技術の開発にしのぎを削っています。

コンチネンタルでは、すでにカメラ、レーダーシステム、高解像度のレーザーセンサー、電子制御ユニットやソフトウェアなどの自動運転やADASに関する主要な要素技術を持っています。

コンチネンタルのADAS事業部の責任者、カール・ハウプト(Karl Haupt)氏は

「先進運転支援システムは、成長が最も著しい分野です。今年は周囲をモニタリングする環境センサーのおかげで、10億ユーロ以上の売上を達成する見込みであり、2020年には20億ユーロ以上への拡大を見込んでいます。つまり、わずか5年でさらに倍増することになります。」

とADAS分野の急成長を予測しています。

今回のADAS強化策のひとつ、日本とインドでの開発能力向上については、日本でADAS機器のハード部分の開発を行い、インドでソフトウェアとアルゴリズムの開発を行うことを計画しています。

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実際に、トヨタ自動車の衝突回避支援パッケージ「Toyota Safety Sense C」向けのカメラ・レーザーレーダー一体型センサーモジュール(MFL)で、コンチネンタルのADAS事業部が二度目となるトヨタ自動車の技術開発賞を受賞しているように、日本でコンチネンタルのADAS機器は高く評価されています。

もうひとつの強化策、フィリピンと中国でのレーダーセンサーの生産能力向上については、コンチネンタルの「in the market for the market(その市場で、その市場のために)」というスローガンに応じた現地化施策ということができます。

コンチネンタルは、2015年、短距離レーダーセンサーの製造をフィリピンのカランバで開始。この短距離レーダーセンサーは、死角検出、車線変更支援、後退時のトラフィックアシストなどの機能を自動車に提供しています。

同社では、将来的にはカランバ工場で1000万台以上の短距離レーダーセンサーと、100万台以上のカメラシステムを製造する計画で、多機能カメラ一体型レーザーセンサーも今年秋には生産を開始する予定としています。

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自動運転・ADASというこれからの自動車の鍵を握るキーテクロジー分野で、日本を含むアジア地域でのコンチネンタルの動向に注目が集まっています。

(山内 博・画像:コンチネンタル)

富士重工業と日本IBMが高度運転支援システム分野での協業を開始

スバルの富士重工業と日本アイ・ビー・エム(以下、日本IBM)は、高度運転支援システム分野での実験映像データの解析システムの構築、 ならびにクラウド・人工知能技術に関する協業検討について合意したと発表しました。

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富士重工業のアイサイトは、ステレオカメラを用いた運転支援システムで、アイサイトからは走行中の膨大な画像データが得られます。

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一方、日本IBMの「IBM Watson IoT for Automotive(アイ・オー・ティー・オートモーティブ)」は、IBMクラウドを基盤とした自動車業界向けのモノのインターネット(IoT)ソリューション。

車体の個々のセンサーから収集されるデータと他のデータを融合して、リアルタイムな分析を支援することができます。

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そこで富士重工業は、日本IBMと協力して、アイサイト等の先進安全システムの膨大な 実験映像データを集約して統合的に管理するシステムを構築し、2016 年4 月から運用を開始した、ということです。

この管理システムを利用すれば、開発者が必要とするシーンの実験映像データの検索や解析が容易になり、より高度な運転支援技術の開発効率を大幅に向上できる見込みです。

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さらに今後は「IBM Watson Internet of Things (IoT) for Automotive」を活用した新たなシステムの構築なども検討するとのこと。

今回の発表は、自動車メーカーの富士重工業とIT系の日本IBMの協業が明らかになった形で、業界を超えた協業関係の行方に注目が集まっています。

(山内 博・画像:富士重工業)